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272:領域外侵食

 俺とキャス、それからミュラは皇都周辺で盗賊が跳梁しているという知らせを受けて通報を受けた街道に向かっていた。


「ミュラはまだしもキャス、お前がついてきて大丈夫だったのか? 魔力適性的に戦闘向きじゃないだろう」


「なにさ、ミュラちゃんと二人きりがいいなら素直にそう言えばいいじゃない。レイ坊ったら照れ屋で困っちゃうなぁ」


 俺は本当にキャスの事を心配しているのだが。腕っぷしが強いのも知っているし、なんなら適当な魔術師では敵わないことも知っている。


 しかし、もしものことがあったらと思うと安心もしていられない。ないとは思うがもし盗賊が親衛隊並の実力だったら。


「ご安心を。お二人は私がお守りします」


「一方的に守るんじゃないって言ったろ。忘れてもらっちゃ困る」


「そう……でしたね」


 敵の気配を探りながら進む。一応聖人の護送という体だ、盗賊であれば大量の財を抱えているはずの聖人を逃しはしないだろう。


 出現が報告されたあたりから少し歩いたところで、キャスが魔力を察知する。5人前後の集団のようだ。


 木の陰に隠れているのを襲うのも面倒だし、とりあえず気付いていない振りをして出てくるのを待つ。


「おっとそこのご一行、止まってもらおうか」


 腕に三重に魔術の起動準備をした盗賊の一団が木陰から現れる。俺はキャスを庇うようにして立ちながら、刀に手をかける。


「大人しくする気はねェようだな。……やれ」


 取り巻きが魔術を放つよりも速く、一番近くの一人の懐に入り込んで一気に叩き斬る。これで敵の標的は俺になったか。


 向けられた腕から放たれる魔術。受けようと身構える俺の前に、ミュラが立ちはだかる。


「な……!」


 現れたのは白い魔法陣のようなもの。うっすら現れただけでよくわからなかったが、魔力障壁のようなものだろうか。


 しかし、火花も散らなければ弾ける音もしない。まるで吸収されるように消えていく。俺の魔力喰いと少し似ている気がする。


「うりゃあ覚悟ッ!」


 おれがミュラの後ろで呆けているうちに、キャスが強化した殴打で盗賊を全員昏倒させていた。


「お見事です」


 さすがというか、なんというか。なんだかんだと近接戦闘は俺が担当ということになっているが、むしろキャスの方が向いているのではないか。


 キャスの殴打には、何か避けがたいものがある。キャスが殴ろうとすれば、その対象は身体の自由を奪われる。そういう感覚だ。


 それは本気の一撃でも軽くはたくのでも差はない。有無を言わせず攻撃されてしまうのだ。


 あの強制的な力はどの範囲まで有効なのだろうか。まあ人だけだとしても強力すぎるのだが。


 キャスの強さは単純な力や魔術の強さではない。妙な圧というか、そういうものが彼女の強さを支えている。


 心配するだけ損だったか。キャスはきっと、一人でもこの盗賊たちを撃滅できたのだろう。それでも俺達に心配させてしまうところが彼女なのだけれど。




教皇の寿命まで─────あと147時間

次回、273:領域外侵食2 お楽しみに!

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