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270:白の聖人

 アーツが言った『本物』というのはどうせそのときにならないと分からないし、それが何かの役に立つのだろうから今は放っておこう。


 それにしても、本当に白い。リリィに白いという印象を覚えていたが、その比ではなかった。極限まで人間を漂白したような姿だ。


 白い、というイメージが余計にそう思わせるのかもしれないが、ミュラの魔力は穏やかで、延々と続く平らな地面を連想させた。


 本当に彼女は聖遺物に適合しているのだろうか。聖遺物の使い手は、俺の感覚ではあるがほぼ全員が聖遺物に合った魔力をしている。


 イッカならば陽光に熱せられた熱い魔力を。教皇であれば聖なる神具を扱うに相応しい清められた魔力を。


 しかし、何だろうこの平坦な魔力は。なにかそこまで平坦さを重視するような聖遺物なのか。


 もしかすると、全てを平地にしてしまうほどの威力なのかもしれない。あの【奉神の御剣】を超える聖遺物というのだからそれくらいの火力があってもおかしくはない。


 であれば切り札というのも納得だ。もしかしたらあの暗雲すらも払ってしまう威力を秘めているかもしれない。


 必要になるまで聖遺物の正体は明かさないということだったから、期待しすぎるのも良くないが場合によっては彼女の力を使って雲を払い、俺が障壁を破壊してからリリィが止めを刺す。そんな戦闘ができるかもしれない。


「あなたがレイ様ですね」


「ああ、そうだけど……」


 ミュラが急に俺のところにやってくる。見ているのが気に障ったのだろうか。目つきが悪いとか鋭いとか言われることもあるし、不快だっただろうか。


「教皇から、あなたと共に戦うべきと言われました。どうか、私にあなたを守らせていただきたい」


 それは、共闘の時まで俺が死なないように守るということだろうか。実際今のところ障壁を破れるのは俺だけだしそういう発想になるのはわかる。


しかし彼女は少し間違っている。発想の方向性は合っているが、それでは不十分だ。


「守ってくれるのは大いに結構。だがな、俺もあんたを守る。俺達は一緒に戦うんだ、俺が死んでもあんたが死んでもいけない」


 ミュラは少し首をかしげてから、しばらくして頷いた。言わんとしていることはわかってくれたようだ。


「さーて、じゃああんたたちは二人で市にでも行っておいで。皇都の人も少しずつ商いを再開しているようだし、ある程度楽しめるだろうさ」


 キャスに背中を叩かれて、部屋の外に追いやられる。少し腹も減っていたから丁度いいと言えば丁度いいのだが、はたしてミュラは楽しいだろうか。


「わたしもご飯食べる」


 リリィもさらりと部屋を抜け出してきたようで、駆け足で俺達に追いつく。さすが食欲の塊、食べ物の気配を感知すると行動が速い。三人の方が話しやすいし、俺としても都合がいい。


「さて。今日は俺が奢ってやる、好きなものを食べるといい」




教皇の寿命まで─────あと164時間

次回、271:再興の市 お楽しみに!

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