251:二人の天使5
敵がこちらの感覚を狂わせていることはわかった。カイルの弾丸は俺に命中しているし、おそらく天使たちの場所だけが判らなくなっているのだ。
しかし、本来俺に魔法など効かないはず。何故効いているのかといえば、それはおそらく魔法が俺ではなく別の何かに働きかけているからなのだろう。
例えば、世界に通ずる審判で俺を悪魔にした魔術。あれのように俺以外の何かを変革させてしまう魔法なのだ。
そしてここはファルス皇国。何かトリッキーな魔法を使うというのならばまず儀式系のものを疑うべきだろう。
怪しいのはこの部屋か。室内を絶対的に有利な空間にすることくらい、防衛戦をするのならば子供でも思いつく。
さて、これを解除するにはどうすればいいか。正面から向かわずに、部屋から出て室内を隈なく爆破するのも悪くない。しかしそれでは本当に彼らを倒せたのか確認ができない。となれば。
「リリィ、俺を守るのは一旦止めて、その分の魔力で壁をブチ抜け!」
この部屋を壊すしかないだろう。こういう範囲の定められた魔法は、その範囲を規定するモノが消えるとその概念強度を失い崩れ落ちる。
リリィの魔法が迸り、次々に壁や天井を撃つ。しかし全く破壊されていなかった。傷の一つもついていない。
「魔法保護か……!」
神代に生きた天使だ。魔法の強力さくらい知っているだろう。となればそれを封印する手立てだってあって当然だ。
であれば魔法以外で壊すのみ。とりあえず爆破魔術の付呪された符を壁に張り付け同時に起動する。
しかし、やはり壁には傷がついていない。魔法がダメなら魔術もダメか。
「これなら……」
ナイフで思い切り壁を殴りつけ、弾丸を連続で撃ち込む。硬い石でできてはいるが、少しも傷がつかないということはないだろう。
壁はほとんど元のままだったが、少しだけ欠けているのが見えた。この銃でこの損傷、おそらくあれならば破壊できる。
「カイル、壁だ」
攻撃を躱しながら、すれ違いざまにカイルに伝える。分厚い鋼鉄すら撃ち抜く弾丸だ、石壁くらい壊せないわけがない。
一射。壁が穿たれる。天使たちの姿が微妙に揺らぐ。一射。大きくひび割れる。天使たちの像が薄くなる。一射。壁が崩れ落ちる。天使たちの姿が解けて消える。
「本物は……」
首を動かし敵影を探す。右でも左でも、前でも後ろでもない。
「そこかッ!」
少し高い天井を見上げる。暗い天井のその奥で、二人の天使が俺を見下ろしていた。
教皇の寿命まで─────あと217時間
次回、252:二人の天使6 お楽しみに!




