244:偽りのユメ
大通りをまっすぐに駆ける。俺とアーツだけが教皇庁へ向かい、あとは外壁の上で待っていてもらうことにした。
通りの右側から襲ってくる者を俺が、左側から襲ってくる者をアーツが切り払いながら進む。
彼らの瞳にはもはや生存という目的は残っていないように見えた。ただ生き残るため、殺し続けあった挙句何故かもわからず殺しているのだ。
俺にもそういう時期があった。無茶な量の依頼を受けまくり、ただ現実から逃げるために殺した。その代償に手に入ったのは大量の現金という現実だったのだが。
まだ、殺しに快感を覚えているのならまだいいのだ。どんな暴食も腹が満ちれば止まるように、飽きが来れば殺しも止まる。
しかし、無意味にただ殺しが目的になってしまえば、極端に言えばこの世に生き物がいる限り終わらない。世界中の生物を殺し尽くし、最後には自分すらを消すだろう。
扉を勢いよく開けて教皇庁に入る。どうやら内部まで人は侵入していないようだった。そうでなければここは酷く荒らされていただろう。
早々に扉を閉めると、教皇の玉座に歩み寄る。無事ではあるようだが、少し前よりかなり具合が悪くなっているように見える。
「教皇、外は酷い有様だぜ」
「この国ももう終わりじゃないかと思うほどにね」
実際、この国はもう終わりかけている。崩れかけた足場の上にいるようなものだ。まさに砂上の楼閣、揺らいだ地盤にこんな立派な塔を建ててもそれは幻影と同じだ。
「それでも、やらなければいけなかったんだよ。完全な白き神の国なんて、偽りのユメなのだから」
長年教皇をやってきた人間がそう言うのだから間違いないだろう。この国の理想は失墜した。ある意味での、理想の終止符をその手で打つ必要があったのだ。
国が無に帰すリスクを許容してでも、これを為さなければいけなかった。それもそうだろう、アーツの言った通りこの国に積み重なった負債は尋常なものではない。
「最後の功績がこれとは、君も報われないね」
教皇の寿命まで─────あと224時間
次回、245:注ぐ憎しみ お楽しみに!




