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239:先に生まれるモノ

「俺が触る。魔力で構成されているものだからな、それで破壊できるだろう」


「そうもいかないのさ。さすがにあの傀儡とは話が違う」


 傀儡とは、先程の黒い人影のことだろう。あれも魔力でできていた、話が違うというのはどういうことだろうか。


 ふと、【奉神の御剣】のことを思い出す。そういえばあれも魔力でできていたが、高密度で凝結させるための魔術がかかっているため俺が触れてはいけないという話だった。


 確かに、単純思考で不用意に触れてここ一帯を爆破されてしまっては敵わない。【奉神の御剣】が国一つを吹き飛ばすというらしいから、門もそれなりに、山くらいは余裕で壊してしまうかもしれない。


 慎重に壊すとなると俺の出番はなさそうだ。手頃な岩に腰かけて、門を壊す様子をのんびり眺めることにした。


 さすがに失敗するとちょっと困る、では済まない。最悪現在の戦力では世界が崩壊してもおかしくない。アーツが傀儡と呼んだあれだけでもファルス皇国が窮地に追い込まれたのだから。


 アーツは懐から宝石や紙を出すと、門の周りに順番に並べていく。ここから見ただけではよくわからないが、陣の作り方的に相当高度なものなのが分かる。


「レイ坊は初めて見るんだったね」


 隣に立つキャスが、オレンジジュースを渡してくる。俺が好きなのはオレンジではなくレモンだと、いつも言っているのに。


 オレンジジュースも嫌いではないが、俺にはちょっと甘すぎる。もう少し機能的でいいのだ、俺にとっては。


「何か、特殊な術式なのか?」


「おうとも。アーツが生み出した、アーツ専用の術式よ。魔術は使えなくても式を構成することは誰にでもできるからね。それこそ魔力を持っていなくても」


 にやりと笑って俺を見る。わかってはいるのだが、なかなか実行する機会がなかった。というより、俺にとってはあまり使う機会がなかったのだ。


 こうして細かいこともするようになったのだし、俺も魔術の勉強をするべきなのだろうか。できることが増えた方がより役に立つ、それは分かっているのだが。


「あれはね、アーツが作ってくれた術式なんだ。対象を、世界から完全になかったことにする大儀式さ」


 ずいぶん物騒なことを言う。世界から完全に消し去るなんて聞いたことがない。破壊でも転移でもなく消滅だ。


 あそこまではできなくとも、俺も何か、それらしいものを使えるようになったらいいか。しょっぱなからアーツを目指すのがいけないのだ。


 そうこうしているうちにアーツがキャスに詠唱を頼みに来る。トリガーとなる詠唱はやはり禁呪使いのアーツには厳しいらしい。


「天よ、地よ、神よ、我は先に生まれしモノ。我が命ずる。其に死を、安らかで緩慢な眠りを。破滅という名の救済を。【オムネス・エバニス】」




教皇の寿命まで─────あと234時間

次回、240:後から生ずるモノ、お楽しみに!

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