238:表裏一体
「門はこれでもう開かないのか?」
「いや、門は別さ。一度引きずり出さないと壊せない」
聖地に神性があるかどうかと、門が開くか否かは別の話だと思っていたのだが、やはりそうだったか。
極端な話、部屋があるかどうかと扉があるかどうかは別の話とか、そういうことだ。門が繋がっているのはあくまで異界。この地の神性が失われたからといってなくなるものではない。部屋がなくても扉が自立するのと同じだ。
アーツはどうやら教皇から門を召喚する術式を教えてもらっていたらしい。アーツ自身は魔術を使えないから、キャスが代わりに唱えるようだ。
「結構時間かかるから、地面に絵でも描いて遊んでいるといい。終わったら呼ぶからあまり遠くには行かないでくれたまえよ」
まるで子供を遊ばせる親のような台詞だ。まあリリィもいるし注意しろというように受け取っておくとするか。さすがに俺がそう思われている訳じゃないよな。うん、そのはず。
実際キャスがぶつぶつ喋っているのを延々見ているのも暇なので、ふらりと遊びに行くことにした。
何をしようかとしばらく考えて、思いついたのは早撃ちだった。俺が落ちている石を投げ上げ、リリィ、カイル、ハイネの三名がそれを各々自由な方法で撃つ。
悪くないゲームだと思う。一見カイルが有利なようにも見えるが、範囲ならリリィが、速度ならハイネに利がある。我ながら、奥の深い遊びになったと思う。
まず一投目、と遥か上空に石を投げ上げる。少し高く投げすぎたか。視力を強化してもどこにあるのかもうわからない。
どこに行ったんだとみんなが探している中、カイルの拳銃が火を噴く。まさかこの距離で当てにいったのか。
「よし、命中っす」
当てたのか。いや、当たったのか? 石が戻ってこないし当たっているのだろうか。
「あの、カイルさん……」
「当たったかわかんないよ」
リリィとハイネに突っ込まれ、カイルはあたふたし始める。やっと自分のしでかしたことに気付いたのだろう。
「い、いや、ちゃんと当てたんすよ。ばっちりっす……!」
状況的にはカイルの勝ちなのだが、どうにも空気的にカイルの反則負けになりそうな感じだ。いい勝負になると思ったのだが、やはり当てることに関してはカイルが強いか。
「じゃあ次の勝負はあの山を誰が最初に壊せるか、ね」
リリィがさらっととんでもない勝負を提案する。この場にお前に対抗できる人間は多分いないと思うぞ、リリィ。
先程カイルにしてやられたのが実は悔しかったのか、本当に山崩し競争を始めようとするリリィを止めているうちに、アーツに声をかけられる。
「召喚できたよ。それから山を壊すのは、俺が参加できるときにしてほしいね」
諫めるのかと思いきやまさか参加する気とは。冗談だと言い切れたらいいのだが、どうにもそう言い切れないところが恐ろしい。どうか冗談であってくれ。
出現した門は、どちらかといえば鏡のようだった。華美な装飾のなされた鏡、その縁の部分。鏡の額と言った方が正しいのだろうか。
門は静かに佇みながら回転している。どちらが表で、どちらが裏なのか。いや、もともとそんな区切りはなかったのだろう。
裏か表か、そんなものは周囲の状況で勝手に決まることだ。部屋があるから扉に表裏が生まれるだけで、扉そのものにそんな区切りはない。
これも同じだ。今俺を向いている面は表であり裏だし、今俺の方を向いていない面も表であり裏だ。まさに表裏一体。別の存在でありながら、同じ存在。
「さて、これをどう壊そうかね」
教皇の寿命まで─────あと234時間
次回、239:先に生まれるモノ お楽しみに!




