237:聖地解体
戦闘を終えた俺達は、聖地を解体するために山頂へ向かう。カイルが言うにはそう厳しい道ではないようだ。全く参考にならないが。
しかし実際たまに人が訪れていたと分かる山だった。明らかに通りやすい部分にうっすらと道のようなものができているのがわかる。これまでに何度もここを通った跡だ。
この時期だからなのかもしれないが、ここにやってくる教徒はいない。まあさっきまで魔獣の巣窟だったここに来ようなんて狂気を持ち合わせた人間はそんなにいないか。
しかし、俺が倒したあれがここ一帯、というかこの国の魔獣の元凶だったと。にわかに信じがたい。
獣が魔力に惹かれるというのはよく言われている話なのだが、獣を魔獣に変化させるにはかなりの量の魔力を必要とする。
確かに相対した時には大きさに見合わない魔力を感じた。しかし、それにしても足りないと思うのだ。あれだけの魔獣の集団を作り上げるにはあれが5体は必要だ。
何か魔獣に変える効率がいいとか、そういう特殊な能力でもあるのだろうか。そんなデタラメで都合のいい力があるとは考えにくいが、ないとも言いきれない。
俺の魔力喰いだって場合によってはかなり都合のいいものだ。そういうピンポイントで役に立つこともないわけではない。
山を登れば登るほど、次第に魔力が濃くなっていくのを感じる。吸う空気に溶けている魔力の割合が増えている。まあ身体の中に入るころには消えているが。
途中で歩く速度が落ち始めたリリィを肩車してさらに登る。孤児院の頃の話は知らないが、少なくとも今は見た目に違わずお嬢様といった生活をしているから、運動は苦手なのだろう。
これでも戦闘の時はスイッチが入ったようによく動く。接近戦が少ないから目立たないが、リリィの戦闘中の勘や運の良さはかなりのものだ。感覚で戦う魔法使いの中では最高峰だと思う。
「ん、なんかここ、気持ちわるい」
頭の上でリリィが呟く。周辺の空気に何か感じ取ったのだろうか。リリィはまだ子供だ。感じ取った不安や気分の悪さを明確に言葉にすることはできないが、それだけは伝えられる。
一応警戒しつつ、先へ進む。カイルの話によれば聖地はもうすぐだという。何かあるのならばそれもすぐに訪れるということだ。
「ここっすね。あの泉っす」
少しむせそうになるほど濃い魔力。甘すぎるお菓子で喉が痛くなるのと同じだ。ここに長時間いると、俺はまだしも他の面々にとっては身体に良くないだろう。
しかし、どうやって門を壊せばいいのか。一度門を呼び出さなければ破壊できないのではないだろうか。そういえばそんな術式は教わっていない。
「さーてリリィちゃん、出番だよ」
「わかった」
嫌な予感がする。聖地とされる小さな泉。リリィ。そして頭上でだんだんと高まっていく魔力。そんな強引なやり方でいいのか。
「えい」
天へと伸びる光の柱が、漂う空気もろとも泉を吹き飛ばす。これは酷い。聖地を解体するというのだから、もう少しまともな儀式があると思ったのだが、特務分室にそんな常識は通用しないのだった。
変なところで繊細なのに、こういうところでは妙に雑というか、豪快というか。どうにも特務分室と言った感じだ。
実際リリィの魔法のおかげで霧のようにたちこめていた魔力はすべて去っていった。これでこの聖地の神性を剥がし、解体できたということでいいのだろうか。
教皇の寿命まで─────あと235時間
次回、238:表裏一体 お楽しみに!




