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230:聖地へ2

「ファルマ教を終わらせる? 教皇の身で?」


 一瞬俺の耳がおかしくなったのかと思ったが、そうではなかった。彼は嘘をついているようには見えない。本当にファルマ教を終わらせるつもりなのだ。


「人の話はよく聞きたまえ。『今までのファルマ教を終わらせる』と言ったのだ。ファルマ教そのものは存続するさ、永遠にね」


 要は従来までのファルマ教の在り方を破壊し、新しい秩序を作るつもりだということか。それを、死ぬ前にやっておきたいと。


 しかし、彼は何を終わらせ、何を始めるつもりなのだろうか。これがもしさらに信者を縛るようなものであれば、協力してよいものか迷うところだ。


 もしこれ以上人々を道具のように扱うのであれば、殺してしまうかもしれない。10日という猶予すら吹き飛ばして。


「儀式魔術の効力を失くすのだ。ファルマ教そのものの神性を薄めて」


 更なる驚きで、酒を少し服に零してしまった。まさかこの男からそんな言葉が出るなんて。先程とはまたベクトルの違う驚きが脳を叩く。


 まさか、あれを破棄しようというのか。俺個人としては人が人らしく生きられるべきだと思うが。


俺と彼女の人間観は少しズレているが、他の何より強い意思を持てるモノ、という部分では一致している。彼女、ヴィアージュはその強さを運命や力に打ち勝つものと捉えているようだが。


 その人らしさを奪うのが儀式魔術だ。気に食わないものではあったが、俺にどうにかできることでもないと思っていた。


「儀式魔術は歴史、繰り返された回数だけでなくその行為に宿る神性にも影響される。その神性の部分だけでも削ぐことで、効果をなかったことにできると思うのだ」


 それで聖地か。単純に大きい小さいでは測れないが、宗教の強さは神性の強さで決まる。そしてそれは聖地の神性の強さに比例する。


 水泡のように浮かんでは消える新興宗教は、基本的にそれが足りていないのだ。せいぜい彼らが祀るのは下級の神。最高神を祀るファルマ教とは格が違うのだ。


 しかし、いいのだろうか。あまりに神性を失くしてしまうと、ファルマ教そのものが消滅しかねない。俺は特にそういうものは信じていないが、心の拠り所にしている人にとっては苦しいだろう。


「儀式魔術の効力を消すだけで済むのか?」


「たぶんね。人々が積み重ねてきた祈りは、そう軽くないはず。そこは彼らに託すしかないね」


 無責任にも取れる言葉だが、それはきっと違う。何かを信じる、そういうことは誰かが強要したり無理矢理に守るものではない。誰でもない人々が紡いでいくものだ。


 酔いが回ったせいか、だんだん眠くなってきた。教皇に礼を言って部屋を出ると、ベッドに潜り込んで湖に沈むように眠りに落ちた。


 そして、また新しい朝はやってくる。




教皇の寿命まで─────あと243時間

次回、231:聖地へ3 お楽しみに!

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