228:認定解除
「最近の魔術師はせっかちでいかんな。悪魔認定の解除であろう、すぐに済ませる」
諭すように言うと、教皇は立ち上がり杖を突いて椅子の後ろへ回る。ついて行ってみると、そこには簡素な魔法陣が描かれていた。
「へえ、聖職者ともあろう者が原始魔術なんて使うんだ」
「原始魔術って何すか?」
「魔法から魔術への過渡期に利用された簡素だが扱いにくいっていうまあ言っちまえば使い道のほとんどない魔術だ。俺も実物見るのは初めてだ」
むしろ、俺が原始魔術を知っていたことに自分でも驚いている。魔法陣を見ただけでよくわかったと思う。まあいくつか特徴もあるしわかり易いといえばそうなのだが。
何しろ、原始魔術を使う人間はびっくりするほど少ない。それも当然、魔法陣をせっせと書いて、できることといえば初等魔術と同程度のことだけだ。
原始魔術はその名の通りできてすぐの魔術、現在の初等魔術の原型になったものだ。昔はこれだけの手間をかけていたというのだから驚きだ。かなり面倒に思える。
教皇が魔法陣を起動すると、椅子が前に動いて階段が現れる。教皇はこうして地下に潜っていたのか。
「ここがレイさんを悪魔にした裁判所なんすね」
大扉の先に広がっていたのは、あの時と同じ裁判所だった。地上層と違って損傷もなく以前の美しさを保っていた。
「さあ、そこに立ちたまえ。君をただの人間に戻してやろう」
壇を飛び降り皮肉に笑う。普通になれたらどれだけよかったか。もちろん教皇は通常の状態という意味で言っているのだろうが、どうにもこういう思考は俺から離れてくれない。
「教皇の名に於いて、かの者神に仇なす悪魔でないことを認める。呪縛から解放されたし」
天から落ちてきた光が俺の全身を貫き、汚れを拭きとるように俺の認定を解除していく。二度と体験したくはないが、こうも実感できるものなのか。
「さて、済んだよ。あとは罪状を破棄するだけだ」
教皇は紙束をめくって一枚の紙を抜き出し、それを半分に破って捨てる。あれが俺の罪状だったのだろう。あれだけ時間をかけて付呪したくせに解呪は結構楽みたいだ。
それにしても、なんとなく信用できない。他に何か余計な魔術や判定を付呪してはいないだろうな。
「では、君達に頼んでいいかな?」
「できる範囲でな」
彼を手伝うのが俺達の条件だ。何かしらやっておかなければ。
「では、お願いしよう。聖地に行ってくれたまえ」
次回、229:聖地へ お楽しみに!




