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226:皇都の惨状

 襲い来る追手を振り切り走り続けて、やっと皇都が見えてきた。あの白い外壁、いつか訪れた皇都で間違いない。


 しかし、近づくにつれて妙な違和感に気が付く。あれだけ綺麗だった外壁が汚れているように見えるのだ。


 砂や土でついた汚れを、ただ掃除していないとかそういう具合ではない。あの赤い飛沫は、どう考えても血液だ。


 おかしい。皇都では何かが起こっている。外敵からの侵攻という様子ではない。どちらかといえば激しい喧嘩のように思える。


 皇都に近づいただけあって、大挙して信者が押し寄せ馬を犠牲に内部に突入しなければいけないかと思っていたが、外壁の内側から刃を掲げて向かってくるのはほんの数人だった。


 おかげで皇都内部には思っているより何倍も楽に入ることができた。


「これは……」


「一国の都とは思えない酷さだね。レイくんを睨みこそすれ、襲い掛かる力すら残っていないみたいだ」


 都全体が俺の生まれた貧民街になってしまったような、そんな地獄のような状況だった。建物は汚れ、壊れ、中も荒れ果てていた。


 人々は痩せ細り、傷つき、確かにもう起き上がって戦える者はほとんどいないように思えた。考えてみれば襲い掛かってきたのはどれも法衣が少し華美な者ばかりだった。


 お布施やらといって金や食料を集めているのは知っている。人々が動けなくなった今でも、その貯蓄で生活できているのだろう。


 門の外で振り切った集団が戻ってこないうちに、彼らの入ってこられない領域、教皇庁に急ぐ。


 この国でいったい何が起きているのか。それも含めて教皇に問いたださなければならない。どうにかしなければ、絶対にこの国は滅びる。ファルス皇国自体に思い入れは無いが、この状況はこちらに伝播してもおかしくない。


 さすがに俺の住んでいる王都全域がこんな状況になってしまうのは困る。貧民街に住んでいたとはいえ、その生活が成り立っていたのは高所得層が存在していたからだ。彼らすら破滅してしまっては俺達なんて生きていけない。


 教皇庁の前に馬を繋ぐと、扉を破るように開けて中へ入っていく。


 崩れ去った教皇庁は、汚れてところどころ破損してこそいたが一度は完全な状態に復元できていたようだ。


 またこの高い塔を登らなければいけないのかと気が重かったが、教皇は正面大階段を上ってすぐの大きな椅子に座っていた。


「よう、ずいぶんやつれたな」


 教皇はかなり弱っていた。頬はこけ、皺の数も増えている。10歳くらいは歳をとったのではないかと思うほどだ。


「アイラの尖兵か、どうやら攻めに来たわけではないようだな。それでは話そうか、この国に何が起こったのか……」

次回、227:誤った門 お楽しみに!

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