218:留守番
「俺とカイルとキャスでファルス皇国内を探ってみようと思う。他のみんなはもしもの時にここを護ってくれたまえ」
そう言い残して、アーツは出ていった。魔獣の出処やバックの存在について調査するつもりなのだろう。
俺も真相が気になるが、ついて行くわけにもいかない。俺がファルスに入れば悪魔としてすぐさま襲撃されてしまうだろう。
それでは俺がいることのメリットよりもデメリットの方が大きくなってしまう。だから、俺は留守番だ。
もうファルス皇国と関わることなんてないと思っていたが、まさかこんな流れでその機会が訪れるとは。
まあ、関わることがないと思っているのは半分で、その実俺は関わりたくないのだ。彼らにはそれなりに痛い目に遭わされた。できるだけ関係は持ちたくない。
『蒼銀団』を早く滅ぼしてしまいたいのと同じだ。いい思い出のないものには近づきたくない。皆そうだろう。
リリィの遊び相手はハイネとシーナに任せておけばいいし、留守番と言ってもすることはあまりない。いつもより少し長くヴィアージュに立ち会ってもらうか。
いつものようにヴィアージュの部屋に入ると、そこには思いがけない人物がいた。
「グラシール、久しぶりだな。邪魔したか?」
ニクスロット王国最強の魔法使い、グラシールがそこにはいた。神代出身の者同士、積もる話でもあったのだろう。手合わせは後回しにすればいい。
「いや、ちょうどよかったよレイくん。趣向替えというやつさ」
そう言いながらヴィアージュが軽く手を振ると、簡素な扉が突如出現する。新しい部屋か何かだろうか。
「ついておいで」
言われるがまま、先行するヴィアージュとグラシールの後を追う。一体何を考えているのか、俺にはさっぱりわからない。
扉の先、少し長い白い廊下を抜けると、そこは大きな部屋だった。空があり、大地があり、しかし果てを感じる部屋だった。
そして、吹く風を浴びて感じる。この部屋の空気に溶けた魔力は、普段のそれより数倍多い。
いわゆる、大気中魔力濃度が高いというやつだ。研究所などでも設定しないこの濃度、まさか神代の頃を再現しているのか。
「勘がいいな、レイ。この部屋は、出来る限り正確に神代の環境を再現している」
道理で。グラシールもこちらに来てから心なしか顔色がいい。ここの空気が神代に近いおかげで調子がいいのか。
そういえば、神代の存在にとって現代の魔力の薄い空気は毒に近いものだと教えてもらった。そのせいでグラシールがかなり衰弱しているということも。
もしかして、ここはグラシールの療養設備なのか。ニクスロット王国としても、現在捕らえているとはいえ戦力を衰弱死などさせたくはないだろう。
「あんた、そんなに弱ってたのか」
「それに拍車をかけたのがお前だよ。ったく、人のことぶった切っておいてよく言うぜ」
確かに、そう言われてみればそうだ。あの時は対立関係にあったから当然ではあるのだが、グラシールに大打撃を与えたのは俺だった。
「それで、ちょうどよかったっていうのはどういうことなんだ? 俺に何か頼みたいことでも?」
「ああそうとも。君には彼のリハビリに付き合ってほしいのさ」
グラシールのリハビリ。魔力回路は稼働させなければ鈍るというし、その感覚を取り戻すための相手ということか。
「まあ、それくらいなら……ってちょっと待った! もしかしてそれって……」
とてつもなく嫌な予感がする。もしかしたら、俺の命すら危ういのではなかろうか。まさか、俺に頼みたいグラシールのリハビリというのは。
「ああ、この部屋でグラシールと戦っておくれよ」
次回、219:本領発揮 お楽しみに!




