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215:千の魔獣

 のんびり観光用の馬車に乗っている暇はないということで、馬に乗って砦まで向かうことになった。


「砦から連絡、見張りの兵が肉眼で魔獣の集団を視認。現在交戦中らしいっす」


 カイルが砦から再度の救援要請を受ける。相手が魔獣とはいえ防衛戦だ、俺達が到着するまでに落ちるということはないだろう。


 しばらく走ると砦が見えてくる。様子を見る限りかなり激しい戦闘になっているらしい。よほど強い力を持つ魔獣がいるのだろうか。


「状況は芳しくないね。レイくん、リリィちゃんを抱えて飛びたまえ」


 これくらいならもはや慣れたものだ。馬の制御をキャスに預けると、ハイネが抱えていたリリィを受け取り鎖の上に乗る。


「方向、角度共にOKっす」


「俺自身も問題ない」


「私も」


 鎖に弾き出されるように、空に飛び上がる。上空から見る戦場は酷いものだった。原因は一瞬でわかった、中央にいるひときわ大きな魔獣だ。


「あいつの頭を狙え。重力石を起動して体勢を安定させる、できるな」


「うん」


 リリィの重力石に魔力が通ったのを確認すると、手を放して俺自身は落下する。リリィが魔法を発動するのに俺は邪魔だ。


 安定して浮遊しているのが分かればもう心配はない。刀を抜いて砦に侵入しようと兵士とぶつかり合っている魔獣の首を切り落とす。


 落下の衝撃が身体に響くが、まだ闘える。しかし、それにしても数が多い。事前に追加で軍を送ってもらっていなければ壊滅していたかもしれない。


 駆け回って崩れかかった防衛線を支える。どの個体も一撃で倒せるくらいの楽な相手ではあったが、それは俺が魔力喰いの力を持っていたからだ。


 どの魔獣も身体こそただの獣だったが、持っている魔力が桁違いだ。魔獣は魔力を魔術に変換できないから、ただ単純に放出という形で魔力を使うが、この威力は他で見るようなそれではない。


 一撃で兵士たちの魔力防壁がひしゃげ、砕ける。体勢の崩れたところを魔獣の巨体に噛みつかれたら一撃だ。


 そして何より中央奥のリーダー格が性質が悪い。一定間隔で放つ魔力波が砦にいる兵士全員に悪影響を及ぼす。


「リリィ、頼む……!」


 上空で光が閃き、魔力を具現化させたような柱が魔獣のリーダーに突き刺さる。その砲撃は魔獣の魔力と共鳴し、対流するように天へ昇っていく。

次回、216:殲滅戦 お楽しみに!

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