212:バカンス
特務分室の面々にオル州行きの話をしたが、誰一人反対はしなかった。というより、むしろみんな乗り気のようだった。
リリィが行きたがるのはまあ分かるが、他のみんなもなんだかんだオル州が好きらしい。キャスが俺達が滞在することによる領主の負担を心配していたが、軍から資金援助があると説明したら納得してくれた。
確かに、あそこはいいところだ。微妙に羊に傾倒しすぎる、というか他の食べ物があまりない傾向こそあるが、のどかでいいところだ。
都市すぎないが田舎すぎない、ちょうどいいバランスが保たれている過ごしやすい場所だ。まあ魔獣の問題がこちらまで及んでくるまでのバカンスだと思えばちょうどいいか。
アーツはやはり俺達が王都から離れることを良しとしているらしく、予定よりも早い馬車を一瞬で手配してきた。俺が話をし終わった直後に手配が完了したと言っていたし、さすがに異常な速度だ。
彼がなぜ王都から離れたがっているかは理解している。しかし、それにしてもやりすぎではないだろうか。何か他に王都に居たくない理由でもあるのかと思ってしまう。
とりあえず、今はついて行こう。たとえアーツがどんな計画を立てていようと、俺は彼の部下だ。追いかけられる間はついて行く。
◆◆◆
「皆さま、いらっしゃいませ!」
馬車と鉄道を乗り継いでオル州の領主の館に到着した俺達を、シーナが迎えてくれる。俺達の応対は彼女と決まっているのか。まあリリィがいればそうもなるか。余計な仕事を増やしてしまって少し申し訳ない。
挨拶もひと段落し、荷物をまとめて街に出ようとしたとき、シーナに声をかけられる。
「レイさん、少しよろしいですか?」
次回、213:身勝手な主張 お楽しみに!




