207:決着2
一瞬で気配を消した【静】には目もくれず、オーウェンの胸ぐらを掴んで宿の外まで投げ飛ばす。それと同時に通話宝石を魔力を込めた宝石で緊急起動しハイネとカイルに連絡する。
【静】の魔術は確かに強力だが、カイルの魔術には敵わない。いくら気配を消したところで空間を掌握できるカイルには敵わない。それこそオーウェンのように異界に消えなければどうにもならない。
屋外に出てしまえば、もう音を気にする必要もない。一切の容赦も遠慮もなく刀を叩きつける。
「お前らの国を想う心は分かったさ。だが、それと同じように俺はあいつを守りたい。俺が責任を持つから、手を出さないでくれないか」
責任を持つ、なんて大層なことを言ってしまったが、オーウェンはきっとそれを認めない。俺が彼の立場なら、絶対に認めないだろう。
大きな力の責任を持つというのは、つまりは何か起きればその時は命を持ってそれを終わらせるということ。
もしリリィが白き終焉として破壊行為に及んだならば、刺し違えてでも彼女を止めるということ。相性的には、不可能ではない。
「あなたが責任を持つ、それはいいだろう。しかし、その実力はあるのですか?」
「あんたに勝って、それを証明するって言ってんだよ」
顔面に鋭い蹴りを入れ、壁までオーウェンを吹き飛ばす。この分でいけば、俺はオーウェンを倒すことができる。さすがに敗者が勝者に何か言うことはできないだろう。
起き上がったオーウェンが笑う。その笑みが何を意味しているかは瞬時に理解できた。しかし、それでも俺は攻撃を辞めない。
首を、後ろから貫く高温の刃。刃自体が魔術で加熱されているのではない、空気との摩擦で熱を持っただけなのだ。
しかし、首を貫く痛みを無視して突進する。【静】の奇襲を利用し俺の動きを封じようとしたのだろうが、そうはいかない。
彼らの戦術によって生まれる有利を打ち消す方法は一つしかない。それは、無視することだ。
彼らの有利は、あくまで心理上のもの。無視してしまえばそれはないのと等しい。ただちょっと痛いだけの一対一だ。
そして、一対一なんていうのは基本的に少なからず痛いもの。要はただ一人と戦っているのと変わらない。
【静】を無視してオーウェンに激しい攻撃を続ける。そしてついに攻撃に耐えられなくなったか、捌ききれなかった峰打ちを数発浴びて地面に倒れる。
「俺の勝ちだ。悪いが好きにさせてもらうぞ」
【静】に刺されたナイフを抜くと、応急処置的に傷を塞ぐ。さすがに痛かった。
オーウェンに背中を向けて歩き出した矢先、何か鋭い殺意のようなものを感じて振り返る。その正体は、オーウェンだった。
「もしあなたがまだ殺し屋であれば、私に好機はなかったでしょう。しかし、あなたは私を殺さなかった。その一瞬の隙が私に反撃の機会を与えてくれた」
そう言うと、オーウェンは背後の壁、その影に溶け込む。最後に、超高速の一撃をご所望ということか。
俺も刀を構え、正面から向かってくるであろうオーウェンの攻撃に備える。彼の魔力はほとんど尽きているから、出てくるまではそうかからない。
一瞬の光明。もはや閃光となったオーウェンと激突する────!
次回、208:決着3 お楽しみに!




