205:対峙2
お互い、静かに戦う術は心得ている。踏み込みはおろか、刀がぶつかる音すらほとんど発生しなかった。
静かではあるが、これもまた凄絶な殺し合いだ。確かに今までは仲間としてやってきた。しかし、背中を預けた仲間だろうと斬らなくてはいけないときはある。
俺とオーウェンでは、守りたいものが違うのだ。もちろん、人それぞれ守りたいものは違うだろう。しかし、俺たちはそれが反立してしまった。
オーウェンは国を守るために、俺はリリィを守るために。お互い自分の為すべきことをするために、どちらかが倒れなければならない。
全力で斬りつけながら漠然と、争いって嫌だなと考える。自分から争いの渦中に飛び込んでおきながらこんなことを言うのは少し変かもしれないが、それでも嫌なものは嫌なのだ。
いや、ここまで争いたくないと思えてくるのは、きっとオーウェンが文句なしにいい仲間だったからだ。だから、剣を交えたくない。こんなこと、こんな争い、不毛すぎる。
もしも、もう少し世界が違っていたら。もう少し立場が違っていたら。
こんな時にもしもの話をしても何の救いにもならないことは知っている。むしろ理想の高潔さと現実の薄汚さの差にため息が出る。
ヒーローになりたくて軍に入り、その腐敗に嫌気がさし数カ月で除隊したなんて話は結構聞くものだ。
当然のことながら、理想というのはよくできすぎている。事象の究極のあるべき形なのだからよくできていても何もおかしくないのだが、少し明るすぎるのだ。
理想の輝きに目が眩んだ者は、現実の暗さを目の当たりにすると絶望に蝕まれる。もしかしたら、俺もそうなのかもしれない。
理想を体現するために戦っている、それは確かだ。その戦いで理想を踏みにじらなければいけないのは皮肉なことだが。
「白き終焉の恐ろしさ、あなたは知っているのでしょう。なぜ世界を滅ぼすかもしれない因子を守ることが出来るのか」
「俺には世界なんざ抱えられないからな。滅ぼうが続こうが大差ねぇのさ」
実際、続くならば続けばいいが、別に滅んでも構わない。そういう大きな波があるのなら、呑まれるのも悪くはない。
それに、俺にはリリィが世界や国を滅ぼすような人間に思えないのだ。その可能性を秘めているだけであって、終焉の引き金となると決まったわけではない。
災禍の芽は早いうちに摘んでしまおうというのが彼らの考えなのだろう。それは決して間違いではない。むしろ、国を守る者としてはそうあるべきだ。
しかし、やはり室内で音を気にして戦うのは居心地が悪い。全力ではあるが制約がある分出力は下がる。
このじれったさを解消するためオーウェンを外に投げ飛ばそうとした次の瞬間、とてつもない悪寒に襲われて音すら気にせず刀を振り抜く。
自分でもなぜ気づけたのか分からない。生命の生存本能とか、そういう類のものだと思う。とにかく、俺の身体が只者ではない何かを感じたのだ。
「お前もグルか、【静】」
次回、206:決着 お楽しみに!




