198:呪われた腕
国の守り、その一番の礎が何かに操られている。彼の中で、何かが蠢いている。正直恐ろしい。まだ、皇帝自身がやっているのなら不幸中の幸いなのだが、そうは思えない。
反射的にオーウェンを警戒してしまう。もし特殊部隊上層部が全員操られているとしたら。背中から襲われても仕方がない。
「大丈夫だ、彼には侵入していない。第一、彼に入っていれば情報が筒抜けで、もっと早く君達は壊滅していたはずだ」
確かに、【滅】の中にいる人間の言うことは正しい。ごもっともだ。オーウェンを通して情報収集ができれば俺達の行動は筒抜けだし、それならばもっと効果的に俺達を叩いている。
侵入できる人数や個人には制限があるのだろう。例えば俺なんかは無理そうだ。オーウェンにも憑りつけない何かの理由があるはずだ。
「【滅】を、返せ」
オーウェンが低い声で言う。上司を操られていた怒り、当然のことだろう。なんだかんだで尊敬しているのだろうし、悔しくて仕方がないだろう。
「安心しろ。今こそちょっと身体を乗っ取らせてもらっているが、普段は思考の制限をしているだけでそれ以外は君の大好きな隊長様のままだ」
「思考の制限……?」
特定の事象について考えることができなくするとか、そういう魔術だったか。様子が大きく変わらないせいで術を受けていると分かりにくいが、ほぼ確実に相手に有利に動く。
「ああ、【滅】は自分のことを顧みることが出来ない。興味を全て国に向けさせるという方法で彼の忠誠心を爆上げしたのさ」
なるほど、そういう形で感情は操作されているのか。確かに、国に対してのマイナスな感情を失えばそうなるかもしれない。
こんなことを言っては怒られてしまうかもしれないが、あれはあれで幸せなのかもしれない。俺は認めないけれど。
不幸を全部取り除けば、そこに残るのは無か幸か。幸せを幻視し続けることが出来るのであれば、それは確かに幸せなのかもしれない。
しかし、それは檻の中で飼われる鳥が、世界を籠の中だけだと思い込み覇者になったと幻想するようなものだ。
「到底許せん。我も貴様らに付こう」
「リック!?」
突然【滅】のうなじに刃が突き立てられる。そこには【静】が立っていた。リックというのは彼の本来の名なのだろう。
前に進み出て、【静】はその左腕を露出する。アダマンタイトで作られたとされる、呪いの聖遺物。今それを御してここにいるのか。
「腕はいいのか?」
「ああ、我がこの程度の呪い弾き返せぬものか」
帽子とマントで顔が隠れてしまっているが、その声からは妙な自信が感じ取れた。腕を御したことで自信がついたのだろうか。
『なーに気取ってやがる、ちょっとオレに勝ったからって調子乗りやがって。んなこと言ってると力貸さねぇぞ!』
腕が大声でわめきだす。あれが腕に宿っているという怨念なのだろう。正体がバレたからもはや隠す気もないのだろう。
「隊長とはいえ覚悟するといい。我の」
『オレの』
「「本気、とくと見せつけてやろう」」
199:呪われた腕2 お楽しみに!




