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197:大地の怒り

 使命と怒りでその力のタガが外れた【滅】は、もはや俺達の手に負えるものではないように思えた。


 【滅】が持つ機能が、どんどん拡張されていく。彼の機能、それは大地との接続。その力がどんどん拡張され、大地までもが彼に連動して動くようになっている。


 拳を振るえば、衝撃波から数秒遅れて地面が飛び出してくる。それも、ただ地面を押し出しているのではなく高密度に圧縮している。


 これは、まずい。飛び出た大地が過度に圧縮され、結晶化してしまっている。これでは破壊することも難しい。


 当たれば即死してもおかしくない鉄の巨塊と、四方から襲い来る破壊不可能な結晶化した大地。


【滅】の力のせいで常に地形が少しずつ変わるし、気を配らなければいけないことが多すぎる。ちょっとでも気を抜けば変動する地面に足を取られ、地面ばかり気にしていると攻撃を避けられない。


 これは、もはやどれだけ集中が続くかという戦いだ。全ての攻撃を躱しきれないことはないのだ。転ばずに走れないことはないのだ。ただ、それに極限の集中力を要するというだけ。


 しかし、このままでは絶対に俺達が負ける。完全に足りていない。有効打を与えられるのはリリィだけ。それ以外の人員は足止めだけで精いっぱい。


 切り札になるはずだったリリィの攻撃すら防がれてしまっては俺達に【滅】を倒す手段などもう残っていない。


「レイさん、お願いします。私と一緒に夜まで耐えてください」


 明らかに俺より疲弊しているオーウェンが、ぼそりと言う。息が荒いのを見る限り大声を出す余裕もないのだろう。


 まだ陽が傾き始めてから少し経っただけだ。日没まではあと3時間はかかるだろう。さすがに3時間もあれと戦い続ける気力も体力もない。


「夜になれば、勝てるのか?」


「それはわかりません。しかし、どちらにしろ負ければ死ぬだけです」


 嫌な事実を叩きつけてくれる。そう、この作戦を受け入れようが断ろうが、負ければ俺達は死ぬのだ。


 生きて目的を果たすためには、【滅】を倒すしかない。何時間もの時間を稼ぐにはどうしたらいいものだろうか。


「なあ【滅】、あんたのその鋼の忠誠心はどこから来ているんだ? ちょっとやそっとの事じゃそこまでの忠誠、国には捧げられないと思うんだがな」


 とりあえず、少し身体を休めるためにも攻撃を躱しながら話しかけることにした。俺が話し始めた途端、明らかに動きが悪くなった。いい具合に集中力を削ぐことはできている。


「忠誠。来る。理由。理由。りゆ……ウ?」


 あんなに激しかった攻撃はだんだん穏やかになっていき、しばらくして完全に停止してしまった。


 まさか、理由が思いつかずに立ち尽くしているのだろうか。本来ならばこんな状況またとない攻撃のチャンスなのだが、何か不気味なものを感じて手を出せなかった。


「兵士の忠誠に理由などいらぬ。兵士とはそういうものだ」


 おぞましさと違和感は、だんだんと増していく。何か看過してはいけないことが起きている。なんだろうこのちぐはぐな感じは。


「お前は……誰だ……?」


 気付いたら訊ねていた。俺の目の前に立っているのは、【滅】であって【滅】ではない。中身だけが別人のような感覚があるのだ。


「気付かれたかぁ……。まあ気付くか」


 誰だという言葉自体は反射的に口から出てしまったが、俺が違和感を覚えていたことそのものは間違ってはいなかった。


 まさか、中身が別の人間とは。しかし、そう考えると彼の行動に説明がつかなくなってしまう。


 彼がここまでの力を発揮できるのは、過去の因縁というものがあったからだ。しかし、今の彼にそこまでの意思を感じない。


「大丈夫なのか、この国は」


 不気味な予感が、俺の胸を掴んで離すことはなかった。

次回、198:呪われた腕 お楽しみに!

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