18:飛翔
キャスに連れられ、王都に入る。ここまで来たらアーツの言った通りに分担して、あとは戦うだけだ。
と、言うだけなら簡単だが、実際にはなかなか難しい。憲兵団西区本部はいわば革命派の本拠地。各諸侯軍が王都に到達していないとはいえ、王都のど真ん中にこんなものがあること自体が異常自体だ。
その異常で、かつ彼らに有利な盤面を崩さないためにも、革命派はかなりの人数を割いて本部を守っている。地上から入るというのはまず無理だ。
リリィの高火力では王都に大きなダメージが入りかねないし、普段ならともかく、いや、いつも通りの俺であってもあの人数を突破するのはなかなか骨が折れる。だいぶ損傷した今だと余計に無理だ。
となると、それこそ地下か空ぐらいしか侵入経路は……。
「そうか、空か」
俺はともかく、リリィには重力石がある。それに彼女の魔力放出を合わせれば……。
「……わかった、できると思う。でも、レイは?」
「ま、なんとかなるだろ。とりあえず、屋上で落ち合おう」
リリィに作戦を話したところ、すぐに快諾してくれた。内容は簡単、リリィが先に重力石で身体を軽くし、魔力を放出して飛翔するというだけの話だ。正直試したことがないから危険を孕んではいるが、今一番、思いつく限りでは確実な方法だ。
最初の勢いをつけるため、リリィを手に乗せて空に打ち出す。鞠のように飛んでいったリリィは、空中でも順調にバランスを取っているようだ。
あとは、俺が彼女の後を追うだけ。まずは近くまで走るしかない。
身体補強の出力を、今できる最大限まで引き出す。ある程度休んだとはいえ相当疲労の溜まった身体にはなかなか堪えるものがあるが、もう数分は耐えられるだろう。
壁を蹴って屋根の上まで飛び上がると、とにかく本部に向かって駆ける。
当然、気を張りつめさせて警戒している憲兵にはすぐにバレ、追いかけ回される。が、これでリリィが見つかる可能性が下がると思えば上出来だ。
とはいえずっと追い回されるというのも面倒だ。適当に拳銃を乱射し、どうにか脚に命中させてその追跡から逃れる。
第一の障害は排除した。が、すぐに第二の障害が立ちはだかる。壁だ。憲兵団本部もそうだが、国の公的な建物は他よりも背が高い。全力で飛び跳ねても、ギリギリ届かないだろう。落ちた時を考えると、試すのも嫌になる。
だからこそ、ここだ。俺は再び、前王の暗殺を行った時のように時計塔に登る。その一件があってから進入禁止とされているが、そんなことを気にしている暇も、咎める人間もいない。
ここからならば、どうにか。
大きく息を吸い込むと、短い距離でどうにか助走をつけて飛ぶ。落ちてそのまま死んでしまうんじゃないか、という恐怖が頭をよぎらなかった、といえば嘘になるが、それでもどうにかたどり着くだろうと、そう思っていたのも事実だ。
どうにか隣の建物の屋根まで転がり込むと、屋根の上をさらに走る。
やっと見えてきた。赤い煉瓦造りが特徴の憲兵団の本部と、その屋上に一人立つ、純白の少女の姿が。あとは適当に揺動を……。
「悪いが、ちょっと壊すぞ」
爆破魔術が付呪された宝石を地面に投げつけると、本部の正門付近が盛大に爆発する。正体不明の攻撃に、注目は一旦あちらに集中するだろう。
やっと俺が本部屋上まで到達すると、リリィが小さく息を吐く。
「遅いよ、遅刻」
「空路がないんだ、しょうがないだろ。ほら、行くぞ」
次回、19:殺戮の人形 お楽しみに!




