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193:大河突破

 確かに、帝国北部から帝都まで、この船がちょうど通れそうな大河がある。しかし、通れるのと通るのは違う。確かに通ることはできるだろう。だが本当にそれをやるだろうか。


「ちょうど強い南風が吹く日があるらしいんだ。北の大あくびというらしいけど」


 それはどこかで聞いたことがある。アイラはあまり影響を受けることはないが、ニクスロット王国の寒気との関係でこの時期強い風が吹くのだったか。


「しかし、船員は従うか?」


 今船を操っている乗組員が、大人しくそんな頼みを聞いてくれるはずもない。川岸にぶつかれば即大破だし、沿岸の警備兵からかなり攻撃を受けるだろう。


「従わせるのさ、絶対にね」


 ここは俺の領分ではなさそうだ。説得の類はアーツやキャスがうまくやってくれるだろう。しかし船に乗って川を遡るか、不安と共に僅かな好奇心が過るのであった。


 死体と部屋を処理した俺達は、二手に別れて行動することにした。俺は作戦内容の伝達を、アーツは乗組員との交渉を。


 ちょうど全員揃っていたので話してみると、オーウェン以外は呆れたような顔をしていた。アーツからの提案と言った時点で察していたのだろう。


 オーウェンはと言えば、何も言えず、ただぼんやりと口を開けていた。普段クールな印象のある分、こういうところを見ると妙に面白い。


 これから王都に乗り込んで最終決戦だというのに、みんな川を遡るのが楽しみで妙に表情がいい。ハイネは少し心配そうだが、カイルとキャスは沈没云々と楽しそうに話している。


 常々思うのだが、特務分室の面々は危機感と言うか、そういうものが足りていないことが多い。これからあの歩く災害のような【滅】と戦うというのに、少しは恐れとかはないのだろうか。


 無駄に恐れて身体を強ばらせろということではない。敵と相対するまで日常のままでいられる精神には驚嘆しているのだ。いい意味でも、ちょっと悪い意味でも。


 なんだかんだとやっているうちにアーツは全員を支配下に置くことに成功していて、風が来れば今すぐにでも始められるという。


 そろそろ決戦が始まるのであれば、それなりの装備が必要だ。各々が部屋に戻り、今できるだけの装備をする。


「カイル、今回はずいぶん重装備だな」


「ええ、相手は強いっすからね。それなりの火力じゃないと何のお役にも立てないっすから」


 確かに、普段カイルが使っている拳銃ではあの男に対しては力不足だろう。俺の銃も今回は目くらましにもならない。鞄に置いてくることにした。


 懐に仕舞おうとして取り落とした魔術符が、強い風に巻き上げられて飛んで行く。とうとう来たのだ、決戦の時が。


「いい風じゃないか」


 少しずつ、速度を上げて突き進む。港の脇を通り過ぎ、度重なる警告を見視して大河へと突っ込んでいく。


事前にキャスがリリィの魔力を借りて船底部に強化魔術を施してくれていたようで、ある程度の障害物ならば打ち壊して進める。


 風の勢いを全力で受けた船の勢いは凄まじかった。ここから引き返す気もない、マストが折れようと構わない。この航路は一方通行、もう戻ることはないのだから。


 襲い来る魔術砲撃すら追い抜いて風に乗って走ること数十分、とうとう帝都が見えてきた。


「皆さん、準備はいいですか? 今度こそ、決着をつけましょう」


 そう言ってオーウェンは、甲板の先頭部に立つ。


「召喚、陸式特殊軍刀:影月」

次回、194:影月 お楽しみに!

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