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192:転進、そして

 商人にいくらか金を払い、商船に一緒に乗せてもらう。あまり大きな商会だと密航が見つかった時のリスクから断られてしまうが、毎度賭けのような商売をしている者の船ならば乗るのは簡単だ。


 彼らはたいてい特筆して金に困っているわけではないが、稼ぐためなら犯罪まがいの行為もやってのけるだろう。


 そして、その予想通り俺達はそこそこ大きめの商船に乗ることができた。これだけ大きな船を持っていながら、密航の手伝いをするほどの稼ぎしかないのが少し変だ。


 違法薬物や禁書などの取引ならばこんなに大きな船は使わない。バレないと分かっていても、それでも怖くてコソコソ小さい船で動きがちだ。


 カイルにこっそり積み荷を調べてもらったが、怪しい荷物は積んでいなかったという。やはり堅実に仕事をしてやっとこの船を買ったということか。


 しかし、だとすれば密航の手伝いをするだろうか。甲板でのんびりするのも飽きて船室に向かっている途中、部屋の一つから声が漏れているのに気付く。


「奴らが反逆者っていうのは、本当なんだろうな?」


「マジっすよ親方。反逆者は七人組って聞いてますし、あの糸目の男帝都で見たことあります。懸賞金は相当のものになりそうっすね」


「よくやった。お前の給料も弾んでやるよ」


 なるほど、俺達はうまくハメられたわけか。実際、密航しようとしている人間が手配犯だと気付けば軍に連絡するのは当然だ。


 密航の報酬、懸賞金、そして名誉。全てが同時に手に入るのだからやらない理由がない。


 なにしろ船内というのは疑似的な檻だ。ましてや密航者は港が近づいてきたら安易に顔を出すわけにもいかず、外の様子が確認できない。暴れようにも、船が壊れては沈んでしまう。


 入港の際に中に手配犯がいると言えば、隠れている俺達には気づかれずに密告をすることができる。あとは軍に突入させてしまえばおしまいだ。全く、いい商売だ。


 しかし、俺は聞いてしまった。残念なことに、聞いてしまった。中に何人いるのかは知らないが、どうにでもしてやろう。脅すなり、殺すなり。


 刀とドアノブに手をかけると、肩をぽんと叩かれる。反射で切り捨てそうになったが、この船の中でこんなことをするのは一人しかいない。どうにか堪えて振り向く。


「君も一緒にやるかい?」


「ああ、生憎聞いちまったからな」


 乗船するときから、おそらくわかっていたのだろう。この船の船員が俺達に牙を剝くと。


 二人並んで、扉を蹴り開ける。中には、航行に関りのない、商品の売買を行う社員が多くいた。少なくとも、ここにいる人間は皆俺達のことを知っている。


「どうされましたお客人。扉はもう少し丁寧に開けていただけると助かるのですが」


 この状況でよく言う。俺達の雰囲気を感じ取って、ただならぬ恐怖を覚えているのが目を見ればわかる。


「今更白々しいよ」


 にっこり笑ってアーツが鎖を射出する。同時に扱える量には限界があるのだろう、殺したのは数人だったが、これで対立は決定的になった。


「殺されて堪るかよぉッ!」


 無秩序に投げつけられる魔術を躱し、消去し、手前から順に斬っていく。もともと、狭い室内での戦闘は得意だ。二人でかかればその場にいる十数人を殺すのに10秒もかからなかった。


「うーん、なんだか暗部組織っぽいことするのは久し振りだね」


「それより、こいつら殺しちまってこの後どうするんだよ」


 アーツに倣って全員殺してしまったが、これでは今船を操っている数人しか船員がいない。人数が少なすぎて怪しまれてしまいそうなものだが。


「この船を選んだ時に思いついたんだ。これは結構冴えたやり方だと思っていてね」


 妙に自信ありげなアーツの口ぶりに、少し不安を覚える。だって、この男がこういうことを宣う時は、往々にして突飛すぎる奇策が飛び出るのだから。


「それは……?」


「この船で、川を上ろうと思うんだ」

次回、193:大河突破 お楽しみに!

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