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191:現世の地獄8

 数分走るごとに、後ろを振り返って来た道を確認してしまう。アーツのことは心配ではない。どんどん悪化していく惨状を、見ずにはいられなかったのだ。


 激しい炎、爆発、そして熱風となって押し寄せる衝撃波。このままいけば、俺達が南に進み始めた頃には山脈全てに炎が回っていることだろう。


 それどころか、下山する前に巻き込まれてもおかしくはない。このまま火の回りが加速すれば俺達すら呑まれてしまう。


 俺達の中には消火に使えそうな魔術を使える者はいない。というか、ここまでの規模になってしまうと生半可な魔術では太刀打ちできないだろう。


 それこそ、グラシールのように大量の氷を発生させて壁を作るなりしないとどうにもならない。


 山脈をリソースとした大火災だ、たかが人一人の魔術でどうにかなるものではない。全力で逃げ切るしかないだろう。


 身体能力が劣るリリィとハイネを抱え、俺達はさらに速度を上げて山道を駆けていく。


 キャスの動きはさすがのもので、リリィを抱えながらでも、髪を木に引っ掛けることなく俊敏に動いている。俺はハイネを抱えているというのもあるが微妙に遅れを取ってしまっている。


「二人とも、人抱えてるのになんでそんなに速いんすか……!?」


 息を切らしながら俺の後をカイルが追う。どちらかと言えば街で走るのに慣れているカイルは山を走るのは得意ではないのだろう。


 大丈夫、一人で走ればなんとかついてこられるはずだ。街育ちとはいえそれくらいの運動センスがカイルにはある。


 しばらく全力で走り続けて、やっと山から抜け出すことができた。さすがに全員息も切れてしまって、かなり疲労がたまっている状態だった。


「すみません、ずっと抱えてもらっちゃって」


「いや、これくらい構わねぇよ」


 火の届かない安全な場所まで移動したところでハイネを下ろす。炎が山脈全体に燃え広がる様子は、さながら現世の地獄のようだった。


 この世が終わったみたいな光景だった。もし戦いによってこの世界が滅びるのであれば、きっと死の直前に映る景色はこんなものだろう。


 ただ、巨大な炎なら美しい。神話にもある天に浮かぶ巨大な炎球などは、とても綺麗だろう。


 しかし、これは違う。数多の命を隅まで燃やし尽くして輝いている。他を踏み台にした輝きには、一種のおぞましさが紛れ込む。


 血飛沫を見るときと同じだ。血飛沫そのものはヒナゲシのように美しいが、そこには一種の毒性がある。


「やあ、みんな無事みたいでよかったよ」


 どこから現れたのか、アーツがにっこり笑いながらこちらに向かって歩いてくる。服に煤が付いているが、特に外傷はなさそうだ。


「お前こそ、よく二人相手に無傷で戻って来られたな」


「どちらも止めを刺し損ねてしまったからね。まあ及第点といったところかな」


 そこまで長くないのに、とても長く感じた時間だった。


「さーて、南に向かって進みますか!」


 明るいキャスの声が、炎で紅く染まった空に響き渡った。浮かぶ月の細さが俺たちの行く道を暗示しているようで、俺はどうにも喜ぶことはできなかった。


次回、192:転進、そして お楽しみに!

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