190:現世の地獄7
何重にも巻かれた布越しでも、禁呪が黒く輝いたのが分かる。星々の護りの中にいるからこそ発動できる、全ての終わり。終末の闇だ。
その黒は、全てを喰らう。小さな小さな、ほんの一点の黒だ。少しで十分、多すぎては世界が滅びる。
余裕がなくなったのか、結界に巻き付いている布が少しずつなくなっていく。どうやら【縛】は布を無限に吸わせることで自分が飲み込まれるのを防いでいるらしい。
しかし、このままというわけにもいかない。あまり長時間発動していると【堕つる終末の黒星】を中心とした数メートルが空っぽになってしまう。
ただ見えているものがなくなるわけではない。無になるのだ、完全に。何もなくなるのだ。有で仕切られた無がそこに発生する。
「さて、そろそろ終いにするかな」
【堕つる終末の黒星】は、発動してしまえば後は吸い込んだものをエネルギーに変化させて拡大していく。
ゆえにあまり発動している時間を延ばすと危険だ。適当なタイミングで解除しなければ全てが飲み込まれる。この星、いや世界そのものだって消滅させられるだろう。
鎖で【縛】の四肢を貫くと、【堕つる終末の黒星】を解除する。布で吸収の許容限度に達していたおかげで、環境にはほとんど変化が出ていない。無の空間ができなかったようで助かった。
無の状態になってしまうと自然復旧には時間がかかるし、自力で直すとなるとこれまた手間がかかる。被害が出なくてよかったよかった。
地面に磔にされた【縛】はといえば、やっと恐怖の表情を見せた。俺のことが恐ろしくて仕方ないといった表情。やっと折れたようで安心した半面、その表情はいつも通りでつまらなかった。
「君たちはよくやったよ。俺をこれだけ足止めできれば優秀優秀」
実際、この二人にはしてやられた。主に【破】だが、その性能が【縛】によるものならば二人の功績だろう。
ぱっと見で大きな損害はないが、身体の中は結構手酷くやられた。しばらくは禁呪の全力行使もできないだろう。
五人しかいない部隊の二人を使ったとはいえ、これで俺は【滅】との戦いに本格参加できなくなってしまった。
「さて、君はどうしてやろうか」
「やめて。殺さないで」
やっと人間らしくなった。身体に聖遺物を埋め込まれた悲劇のヒロインを演じている彼女は消え、ただ戦いに負けた魔術師になった。
心臓に狙いを定め、鎖の先端を少しだけ出す。こういう状態になった以上このまま放っておいてもいいが、面倒だし殺してしまおう。
「あああああああッッッ!!!」
突如、脇から【破】が飛び掛かってくる。鎖を束ねて防ぐことはできたが、それと同時に周りの木々が燃え盛り視界が塞がれる。
「仕方ない、潮時だし今回は帰ることにしようか」
次回、191:現世の地獄8 お楽しみに!