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189:現世の地獄6

 ここに留まっていられるのはあと20分。いや、もう少し短いだろうか。木々に延焼した炎はどんどん勢いを増している。


 激しい熱と煙に身体の自由を奪われては、俺とてどうすることもできない。少し経ったら離脱しなければならないだろう。


 ここから有利に戦うためにも、ここで彼女を仕留めておかなければいけない。このまま彼女を野放しにしていれば、いつか俺達を潰す癌となるだろう。


 彼女自身の戦闘力はあまり高くない。聖遺物への適性こそずば抜けているが、魔力の量も質も並より少し上程度。恐ろしいのはその精神性だ。


 聖遺物を身体に埋め込まれながら正気を保ち、自身のためならば自分が苦しんだ仕打ちを平気で他人に与える。はっきり言ってまともじゃない。俺が言えた話ではないのだけれど。


 飛んでくる布のことごとくを鎖で貫いて叩き落す。【夢幻】シリーズの聖遺物は自由に形態を変化させられるが、固定されてしまうとそれ以上の変化を起こせないという特徴がある。


 攻撃を抑えられているのはいいが、こちらに攻撃の隙も与えてくれない。俺が一度に操れる鎖の数を把握しているのだろうか。


 まあ相手方の操れる布の量と鎖の数が一致しているだけなのだろう。もしもの時に備えて他の禁呪をゆっくりと励起する。


 同時に、使えるだろうか。禁呪は組み合わせによっても負荷が変わる。この組み合わせは使ったことがないから、少し不安だ。


 不安も、恐怖も、欲望も、みんな笑顔で作った仮面の下に隠したのだ。何食わぬ顔ですべてやってのけてみせよう。


 盾を展開し、叩きつける布を防いで攻撃に専念する。結界が黒い布に覆われ視界がどんどん狭まっていくが、そんなことは些細なことだ。鎖数本あれば思ったように相手を誘導することができる。


 進路を塞ぎ、退路を断つ。勝つための手というのはそういうものだ。昔は同時起動するとまともに動かすことすらできなかった鎖も、今では手足のように動かせる。


 精神性こそ異常だが、【縛】に戦士としての強さはあまりない。動きは手に取るようにわかる。


 普段【破】の強靭さに頼って補助役に回っていたせいで直接戦闘の勘も磨かれていない。動きだけで言えばはっきり言って訓練し始めの予備役、ほぼ素人だ。


 これだから、神代ありきの戦争は。神代の力さえあれば、それさえ扱えれば戦争に勝ててしまう。


 聖遺物や魔法に頼ることは何も悪くない。より強力な力を求めるのが人間だ。しかし、手段が強くなればなるほど人間そのものは鈍らになる。


 馬に乗れば足が遅くなり、魔導機関が出回れば火を熾せなくなる。そうして鈍になった人間は、あまり好きになれない。


 もちろん、ヒト全体の歩みとしてそうなるのは仕方ないと思う。しかし、ただ大きな力にもたれかかって何もしない者には反吐が出る。


「喰らえ、【堕つる終末の黒星(ザ・ドゥーム)】」

次回、190:現世の地獄7 お楽しみに!

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