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186:現世の地獄3

 気絶から意識を取り戻した少女は、さすがに強かった。四方八方から高速で撃ち込む鎖を、全て手と足で弾き返しているのだ。極限まで追い詰められて、精神が研ぎ澄まされているのだろう。


 今のところこちらが攻撃できているから均衡を保てているが、こちらの攻勢が少しでも崩されれば戦況は一気にひっくり返る。


 動きこそ少ないが、熾烈な戦いだ。少女は俺を出し抜く動作を、俺は少女を動かさない攻撃を、どちらか一方が負けるまで繰り返し続ける。


 最初は、鎖をまともに敵に当てることすらできなかったのだ。禁呪を使う度に、身体が痛くて痛くて仕方がなかった。


 現在は失ったことにしているが、俺の魔力特性は変転だ。本来錬金術などに才能を発揮する魔力特性だが、俺は何かではなく自分を変化させることにしたのだ。


 禁呪の存在は、俺にとってはうってつけだった。禁呪を取り込めるのは魔力特性、魔力回路の近しい者だけ。しかし、自分を変転させればそんなことは些細な問題だ。


 自分そのものを書き換え、禁呪を取り込むのに最適な身体に作り替える。それが、俺が大量の禁呪を取り込むことのできた理由だ。


 俺が最初に取り込んだのは5つ。そのすべてに馴染むような身体を作るのは大変だった。それに、魔力回路は偽装できても魔力特性はどうにもならない。禁呪を取り込むリスクは少なからず残っていた。


 5度、死にそうな思いをした。禁呪が、なぜそう呼ばれているのかよくわかる。苦しすぎるのだ。


 ハイネのように魔力特性がぴったりならばともかく、それが乖離すればするほどに禁呪による苦痛は増していく。


 禁呪というのは、身体を隅から隅まで喰らい尽くす。そして、それに耐えられなければ死ぬ。美しくあるが、その反面恐ろしくもある。


 飛んで火に入る夏の虫、といったところか。禁呪はその美しさゆえに人を強く惹きつける。そしてそれを手に入れられるのは火に入っても燃え尽きなかった虫だけだ。


 禁呪が美しいのは、ある意味当然だ。禁呪はある魔術の極致。究極に至った魔術だ。それが美しくないわけがない。


 才能だけでは足りない。より使いやすく、より高威力に、血の滲むような研究と、数え切れないほどの実戦での利用。それがあって、ようやく完成するかどうかというものだ。


 特務分室だと、カイルの魔術が一番それに近いか。結晶として結実するにはまだ実戦が足りないけれど。


 彼女の魔術も禁呪クラスの威力だろう。あんな多重の爆発や、こんな烈しい炎はたとえ得意にしている魔術師でだって使えまい。


 俺の高速の鎖を退けられるのだって、拳や掌で爆発を起こし、鎖の威力を相殺しているからだ。ただ身体を強化した程度ならば簡単に貫ける。


 なかなか前進して殺しにくいのはそのせいだ。少女の発する熱と爆風はすさまじい。周辺が炎の嵐のようになっている。周辺の木々にも燃え移って、辺りは火に包まれようとしていた。


 そろそろ決めないと、俺自身がまずい。最強の盾があるとはいえ、魔力との兼ね合いもある。ずっとこのままというわけにはいかない。


 少女の魔力が先に尽きてくれればいいのだが。実際あり得ない話ではない。いくら手馴れているとはいえ、これだけ高火力の魔術を連発すれば魔力の消費も馬鹿にならないはずだ。


「死ねッ!」


 少女が空に向かって爆発魔術を発動する。放たれた閃光と爆音で一瞬感覚が潰される。死の予感がする。


 まるで大鐘でも鳴らすような音が鳴り響いた。どうにかギリギリ、盾の展開を間に合わせることができたようだ。


 蒼く輝く壁の向こうに、殺意に満ちた少女の瞳が見える。髪と同じ金色で、燃えるように輝いている。とても美しい。


「うーん、さすがに良くなかったかな」


 にっこりと固定した口の端から、血が零れるのが分かった。

次回、187:現世の地獄4 お楽しみに!

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