183:這い寄る焔影
こういう状況で情報を完全に断たれた環境にいるというのはかなり不安なものがある。相手がどこまで俺達のことを知っているのか全く分からない。
街中にいると敵に見つかる可能性も高いが、その分こちらも相手の情報を得ることができる。結果的に街の方が安全なのだ。
とにかく恐ろしいのが奇襲だ。どんなに強力な盾を持とうと、意識の外から襲われればどうにもならない。
特に【静】。彼がもし襲ってきたら確実に俺達は全滅する。聞けば聖遺物持ちだというし、気配を完全に消して全員の急所を突くのに数秒もかからない。
オーウェンを信じるならば【静】は襲ってこないが、そういう可能性があるということは頭に入れておくべきだろう。
みんながみんな【滅】のように分かりやすければよかったのに。強さまで似てしまっては困るのだが、あれくらい目立ってくれると助かる。
まあ山のかなり奥までやってきたし、あと数日は大丈夫だろう。まず特殊部隊には現在まともに動ける要員がいないはずだ。【縛】は単独行動が得意な方ではないし、【破】が復活するまではこちらに来ないだろう。
【滅】はどれくらいで元に戻るだろうか。先の戦闘でかなりの損害を与えられたはずだ。あとはリリィの力でどれだけ再生を抑えられるかといったところか。
この山登りと戦闘で俺達も疲労が溜まっている。お互いある程度の消耗だからお互い様だが、ここまでやってようやくおあいこだ。
今は逃走する時間が少しでも稼げただけでありがたい。山道を歩き、岩の上で寝るのはかなり堪える。貧民街の粗末なベッドより酷い。
しかし、俺の中からどうにも完全に不安を拭い去ることが出来なかった。拭い去れないというよりは、拭っても拭っても湧き出てくるのだ。
何か嫌な予感がする。彼らを甘く見てはいけない。常人のように傷を完全に治してくるかも分からないし、何か予想外の方法で追ってくるかもしれない。
少しでも不安要素を取り除くために、とりあえず山道の各所に感知系の罠を仕掛けておく。
魔力を感知するとその魔力を利用してこちらで音が鳴る、通話宝石の技術を応用した罠を主軸に数種類。魔力の詳細を検知するものも仕掛けた。
俺達の通った道の近くをうまい具合に通ってくれればいいのだが。もちろん、一番は追ってこないことだけれども。
そして、またしばらく歩いた。ちょうど一息つこうというところで宝石がけたたましく鳴り響き、そして砕けた。
「レイくん、山中で鳴り物は控えなよ」
「いや、これは……」
おかしい。こんなに大きな音が出るようなものではないのだ。それに、今のは大きすぎる音に耐えきれず壊れたように見えた。
それだけ強大な魔力が接近しているということだ。焦って他の宝石を遠くに投げ捨てると、各地から順番に大きな音が聞こえてくる。
「レイ坊、魔力反応は?」
「赤だ。まあ【破】と断定していいだろうな」
184:現世の地獄 お楽しみに!