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180:アルタン山脈の死闘3

 それは、もう刀と呼んでいいものなのかわからなかった。ただただ暴力的な金属の塊。形だけは刀のそれを留めていたが、そこにもはや斬るという機能は存在していないように思えた。


 ただただ圧倒的な質量で、押し潰す。参式特殊軍刀:破山剣と呼ばれたその刀は、まさしく【滅】の武器に相応しかった。


 俺よりも大きい刀身を持つ破山剣を、片手で楽々持ち上げている。あんな巨大な金属塊に押しつぶされれば身体が四散してしまう。


 刀も身体も耐えきれない。近づくことすら困難になってしまった。これを振り回しさえすればそこはもう接近するだけで死ぬ地獄だ。


 鋼鉄の嵐。それを抜けて攻撃を与えられるような力も技術も俺達にはなかった。


「オーウェン、特殊軍刀って何なんだ?」


「特殊部隊に所属する者のみ持つことを許される軍刀です。形状、効果共に個人に最適になるように造られています」


 全員にそれぞれ合った装備を配給することは難しいから、特殊部隊所属の者に限定しているのだろう。というかそれならば、オーウェンも何か持っているのではないのだろうか。


「お前は使わないのか?」


「ええ、ちょっとここでは使いにくいですので」


 ここでは使いにくいか。燃えるとか長いとかそういうことなのだろう。いくら自分にぴったりの秘密兵器といっても、環境に合っていなければ邪魔なだけの代物だ。


「なんだ、もう攻撃して来ないのか?」


 【滅】が挑発するように俺達を見下ろす。そんな見え透いた挑発には乗るまい。攻撃できるものならもうしている。どうにか隙を探さなければ。


 アーツと一瞬視線を合わせる。考えていることはおそらく同じだ、ここはアーツを信じよう。


 十分に注意しながら走って接近する。破山剣を持ったことで、【滅】のリーチとパワーは大幅に上昇した。攻撃を掻い潜らなければいけない距離は伸び、さらに大きく回避しなければならない。


 横薙ぎの刀を滑り込みで避けるが、振るった衝撃だけで地面に叩きつけられる。地面が割れ、骨が軋んだ。しかしこれでも空中に撥ね上げられるよりはマシだ。


 追撃より早く起き上がると、振り上げられる刃を無視して走る。もしあれが落ちてきたら。そう考えると恐怖で足がもつれそうになるが、何とか歯を食いしばって走る。


「!?」


 【滅】が声にならない呻き声をあげる。それもそのはず、振り下ろそうとした刀がびくともしないのだから。


 破山剣は、アーツの鎖によってがっちりと固定されていた。空中の魔法陣から飛び出した無数の鎖が、四方八方から執拗なまでにその動きを封じている。たとえ【滅】といえども対処はできまい。


 その隙に、俺は【滅】を滅茶苦茶に斬りつける。一撃ごとに移動しながら、身体のそこかしこを切り裂いた。


 傷自体はすぐに塞がる。しかし、傷が出来るということは相応の痛みも感じているはずだ。痛みで怯み、攻撃の手を止めることはなくとも、痛みが続けば苦しいのは変わらない。


「いい加減にしろ!」


 【滅】が堪えかねたのか左手を振り回す。どうにか直撃は避けられたが、風圧で遠くまで追いやられてしまった。


 肉体的ダメージそのものは微々たるものでも、今のでそれなりに精神的に負担がかかっているはずだ。


 破山剣からは手を放し、どうやらここからは素手で戦うつもりらしい。脅威度が大して変わらないところが憎たらしい。


 そんなことを言ってもどうにもならないのだが。


 しかし、この状況も長くは続かない。あと数秒で戦況は変わるのだ。一歩間違えれば命を落とす緊張に満ちた戦いも、全てはこの一瞬のため。


「魔力充填完了。いけるよ」


 どんな努力も、献身も、その結果が出るのはほんの一瞬だ。ただ一度の輝きのために、全ての負債は積み上げられる。


「天地別つ極光よ」

次回、181:アルタン山脈の死闘4 お楽しみに!

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