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179:アルタン山脈の死闘2

「見損なったぞ、【影】ッ!」


「それはこちらの台詞です、【滅】。あなたは正義の人だと思っていた」


 軍刀を抜いたオーウェンが先頭に立つ。以前から知っていたとはいえ、この圧力に立ち向かえるのは普通ではない。


 実際後ろを見れば、アーツ以外の全員が及び腰になってしまっている。相変わらずアーツは涼しい顔で、もはや感心を通り越して呆れてしまう。どこか心が壊れているのではないか。


「俺は正義だ。この国を守るのが正義だ。帝国を守るためならば、俺は他の全てを滅ぼしてもいい」


 親衛隊に勝るとも劣らない忠誠心だ。国やら王やら、そういうものにここまでの忠誠を捧げられるのは、俺にとっては信じられない。俺が守れるのは、せいぜい誰でもない誰かだ。


「一撃、必殺!」


 ハイネが拳を握り、【滅】の心臓を破壊する。避けも防ぎもしなかった。これは確実に決まっただろう。


 しかし、【滅】は倒れなかった。倒れないどころか少しも効果がないようにも見える。絶対に心臓を潰した。それは確かなのに。


「彼は大地から力の供与を受けています。その回復性能は魔術の比ではありません」


 そういえば、オーウェンのメモにも書いてあった。大地の神の力を持つ巨人族の血を引いていると。


 奴を倒したければやはり生半可な攻撃ではダメなのだ。一度に全て消滅させるほどの、圧倒的な火力が必要だ。


「リリィ、ぶっ放せ!」


 俺の掛け声と同時に、リリィの魔法が迸る。急に発動したもので威力こそ全力に比べたら微々たるものだが、人一人を消滅させるには十分だ。


 光の奔流は真っ直ぐ伸びていって、【滅】を貫く。ことはなかった。【滅】が天に向かって振り上げた拳に沿って、光は空へと昇ったのだ。


「確かに強い。が、しかしまだ足りん」


 即席の一撃とはいえ、リリィの魔法の軌道をここまで変えてしまうとは。これこそが究極のパワー型だ。その拳から放たれる、強力な一撃は全てを解決する。それだけの強さがあるのだ。


 力だけが強さではない、それもまた事実だろう。しかし、力は強さなのだ。彼の拳は山を砕き、海を裂く。小細工も何も、圧倒的な力の前には通用しない。


「アーツ、どうする」


 アーツの傍によって小声で尋ねる。今は睨み合っている状態だからいいが、いつ本格的な戦闘になるか分からない。そうなれば機動力に優れない面々はすぐに潰されてしまう。


「リリィを主軸に超高火力の光属性魔法を発動する。ハイネとキャスは魔力補助、カイルが座標調整、それ以外はこの男を魔力が溜まるまで足止めだ」


 まあ、それくらいしかないか。おそらく俺達の中で【滅】のあの火力に対抗できるのはリリィしかいない。


 俺達は散開して、出来るだけその場から動かさないように【滅】に攻撃する。


 しかし、結果的には焼け石に水というのが相応しいか。弾丸も刃も届く前に吹き飛ばされてしまう。


 多少なりともダメージを与えられているのはアーツとハイネだが、それすらも一瞬で回復されてしまう。


 俺は移動しながら考える。できるだけ大きい損傷を与えるには、どこを攻撃すればいいか。一番は首だ。次点で肘。足首や膝も悪くない。


 動きの癖こそまだ完全には分からないが、戦っている様子を見ているといくつかの癖が見えてくる。そこを突けばどうにか一矢報いることができる。


「覚悟ッ!」


 出来る限り低い姿勢で走り出す。そう遠い距離ではない、俺達の感覚は瞬時に詰まり、あと数メートルのところまで接近する。


 振り上げられる【滅】の腕。そして、一瞬の筋肉の収縮。そのほんのわずかな時間を利用して、一歩だけ余計に前に出る。


 通常より高威力の打撃をしたいとき、一瞬力を溜めるのだ。ごく小さな差ではあるが、戦いの中ではその差は明確な隙として表れる。


 真後ろに振り下ろされた腕の衝撃波で吹き飛ばされる。まるで巨人に蹴られたようだ。


 しかし、空中でどうにか姿勢を保って【滅】の腱に向かって刃を振るう。身体ごと高速回転させた一撃は、深々と【滅】の身体を切り裂いた。


 そのまま身体を捻って木に両足を着くと、思い切り幹を蹴って首を狙う。


 振り抜かれた裏拳に手をかけて宙返りすると、さすがに勢いが付きすぎて攻撃は届かなかった。


 しかし、できたのだ。どうにか一撃喰らわせることができた。微々たる一撃だが、それでも一撃は一撃だ。


「さすがに、舐めていい相手ではないようだな」


 【滅】が呟くと、足元から複雑な魔法陣が拡がっていく。パッと見この複雑さは召喚系の魔術だろうか。


「ま、まさか……!」


「召喚、参式特殊軍刀:破山剣ッ!」

次回、180:アルタン山脈の死闘3 お楽しみに!

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