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171:闇の残像2-4

 男は強かった。絶対に致命的な一発を撃ち込んでくることはないが、その一つ一つが苛烈だ。何もかも未熟な私たちでは、どうすることもできない。


 私もリックも、正面から戦うのは苦手なのだ。私の攻撃手段は刀と中等魔術、リックの攻撃手段も短剣と中等魔術だ。


 私たちのように、魔力特性が五属性からだいぶ派生した遠いものになると、他の魔術の使用がかなり厳しくなってくる。男は水系が得意なようだが、五属性の範囲内なために他の属性もある程度使うことが出来るのだろう。


 私たちはそこから外れてしまっているために、攻撃力の低い中等魔術くらいしか使うことが出来ない。


 だからこそ私たちは刃物という攻撃手段に移った。物理攻撃を使用する魔術師は軽蔑されることも多いが、こうでもしないと戦ってはこられなかったのだ。実際魔術しか使わない兵士よりも強いことが多い。


 まあそれでも、実力差がここまであるとどうにもならないのだが。状況は明らかにこちらが悪い。


「オーウェン、あれしかない」


「無理させてくれるね」


 リックの言ったあれとは十中八九私たちが練習中の魔術だ。幸いここはそれをするのにはちょうどいい。


 刀を鞘に仕舞い男とは反対側に走る。男の氷や水が迫るが、それをリックが魔力障壁で防いでくれる。この隙が必要だった。


「我を影へ。光射さぬ悠久へ」


 息を大きく吐き、影の中に溶け込む。水に潜るのと似ているようで、少し違った。息ができるし身体も自由に動かせる。


 私は、影になったのだ。影となって影の中を移動する。これならば気配は完全に消えるから男にも居所が割れることはない。


 私は今、世界に存在しないのだ。世界の、少しだけ外の領域に出てしまっている。だが、だからこそ私は戦えるのだ。


 この魔術はまだ完全なものではない。リスクも多く普段使うことは避けてきたが、ここで使わずいつ使う。


 こちらからでも、世界の様子はうっすらと観測することはできる。正確ではないが男とリックの位置が分かる。ここからなら行ける。


 この水路が今の魔術に向いている理由は、地下にあることで全域が影になっているからだ。影を媒介としてしか出入りできないため、ここならばどこからでも出入りができる。


 身体を低くし、右手を軍刀の柄に添える。そのまままっすぐに、男へ向かって加速する。影の世界ならば物理法則も何もない。一瞬で捕捉不可能なほどの速さまで加速できる。


 男の数メートル手前で実体化し、勢いに乗せて思い切り軍刀を振り抜く。男の位置が微妙にズレていたせいで大きな一撃にはならなかったが、何とか一矢報いることはできた。


 超高速で迸った刃は男の脇腹を深く切り裂き、それなりのダメージにはなっただろう。しかし私も着地がうまくできずにしたたかに身体を床や壁に打ち付けてしまった。利き腕の右腕がダメになってしまっていて、もう全力では戦えない。


「大丈夫か?」


「骨がやられたよ。無理矢理動かすくらいならできるけど」


 魔力自体は割と潤沢にある。無理に流し込めばどうにかあと一撃、出来るかどうか。その程度だ。


 しかし、私が魔力を右腕に通すよりも前に男が両腕を挙げる。もっとも左腕は脇腹の傷を押さえるためにすぐ下げてしまったが。降参したというのに、男の顔は妙に清々しかった。


「君たちの勝ちだ。この国の未来は預けよう」

次回、172:闇の残像3 お楽しみに!

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