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170:闇の残像2-3

 刀を振り上げ突進する。これでも帝国軍の一員だ。ちょっと動ける魔術師に負ける気はない。


「隙が多すぎる。もっと鍛えるんだな」


 傷痕のある左腕から水流が迸り、私の胸を直撃する。激しく吹き飛ばされるが、これも想定内。むしろ殺傷性の低い水で助かった。


 リックは俺がやられたのを察して動いてくれるだろう。吹き飛ばされながらもリックが男の背後に降り立つのを見る。


「悪くない。が、まだ甘いな」


 壁に打ち付けられて見えなかったが、男の口ぶりからして攻撃は当たらなかったようだ。


 あれだけ消えているリックの気配を察知するとは。警戒している状態でリックがただ一人襲ってくるならばまだ分かるが、敵は私一人だと考えているはずだ。


「俺を騙したかったら、あと一人連れてくるんだったな。帝国軍は最低でも二人で行動する。一人しか来なかったらもう一人の伏兵を警戒すべきだ」


 最低二人行動の原則はアルタニアだけの決まりであり、一般に周知されていることではない。何故それを知っているのか。


「あなた、軍関係者ですか?」


「いい勘だ。答えは是、俺は数年前に退役したのさ」


 元軍人、それで知っていたわけか。戦闘力がチンピラとは違うのが先程の一瞬でわかった。舐めてかかっていい相手ではない。


 男は変わった形の眼鏡をかけると、魔術で生成した水を衛星のように周囲に浮かせる。さっき貰った一撃は水でこそあったがかなり重い一撃だった。全力で腹を殴られたようだ。


 それに、水は殺傷力こそ低いが服が濡れて重くなり、体温が下がるせいで身体が動きづらくなるし体力も奪われる。


「君たちのような有望な若者を殺したくはない。上官に状況を報告して撤退してくれないか?」


 若い兵士は残したいということだろうか。氷ではなく水の魔術を使った理由が分かった。不利な状況を作って戦意から奪おうということか。


 だが、そんなことで退くわけにはいかない。予備役だろうと兵士なのだ、命を賭してもその使命を全うする。兵士の本懐は、民の安寧を守ることだ。


 ポケットから通話宝石を取り出すと、地面に投げつけて破壊する。痛い出費だが、これくらいしないと足が前に出ない。


 正直なところ怖いのだ。こんなに強い魔術師と本気で戦うのは初めてだ。一瞬で殺されていてもおかしくなかった。


 それに、逃げてしまえなんて甘い言葉をかけられるものだからどうしても逃げたくなる。自ら退路を断たなければ前には進めない。


「火焔よ、我が刃に宿れ」


 軍刀に炎の魔術を付与して、氷対策にする。水をかけられれば一時的に火は消えてしまうが、種火ではなく魔力で着火している炎だ、すぐに復活する。


 男の許に走りながら問う。普段は気が散るからとこんなことはしないのに。自分でも理由は分からなかった。


「あなたは軍にいたのに、なぜこんなことを?」


「あの商会は街の商店を相手に詐欺を働いていた。それも、騙されていると気づかないほどに狡猾なね」


 男は、私とリックの攻撃を受け流しながらゆっくりと話す。水や氷というのは、魔術や打撃をうまい具合に受け止められてなかなか便利なものだ。感心している暇はないのだが。


「気付かないから訴えることもできず、絞り尽くされていく商店を見てはいられなかった。軍で裁けない悪は、誰が裁く?」


「それは、私たちがもっと……」


 言い返せない。軍は確かに街の規律と安全を守っている。しかし事件に対しては証拠がなければ動けず、見逃されて零れ落ちていく笑顔だって少なくはない。


「悪を為した者の財を奪い、被害者に返還し、主犯の行動の自由もしばらく奪った。法の上では悪だろう、しかし君達は俺を悪だと断じることができるか?」


「善か悪かなんて、そんなのわかりません。でも、あなたは確かに罰せられるべきことをした!」


 悪を以て悪を裁く。それがまた一つの正義の形なのは理解している。しかし、悪を裁いたとしても悪は悪なのだ。答えが正しくても過程が間違っていれば、それは間違いになってしまう。


「では、証明してみろ。俺を倒してな」

次回、171:闇の残像2-4 お楽しみに!

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