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169:闇の残像2-2

次回、170:闇の残像2-3 お楽しみに!

 手がかりらしい手掛かりも見つからず、数日が経った。初めての大きな事件というのもあり、私は少し焦っていた。


 このままでは手柄を他の兵士に取られてしまうどころか、次の犯行が起こりかねない。いろいろな意味で見過ごせない。


 部屋で資料と睨み合いながら今日10杯目のコーヒーを飲み干す。さすがに身体に悪い気もするが、妙に気が逸ってしまってどうにもならない。


 水系の魔術は証拠を洗い流したりなんだりで、犯罪にはもってこいだ。攻撃の際は氷を使っていたというが、氷専門家なんて奴の方が珍しい。


 泥棒一人逃したことがない私でも、これほどの犯罪者になると捕らえられないのか。何故苛ついているかといえば、その一番の理由は自分の使えなさだ。


 うだうだと文句ばかり言って、結局自分一人では何もすることができない。剣もそこそこ、体術も身体能力もそこそこ、魔力特性こそ珍しいが戦闘ではほとんど使えない。


 これならば適当に勉強して適当な役人にでもなった方が良かったのではないか。だが、願ってしまった以上適当な人生に逃げても後悔しか残らない。


「努力か……」


 はっきり言って、私は慢心していたのだ。スカウトされたという事実が、私に余計な余裕を与えていたのだ。だからこそ、何かと理由を付けて鍛錬を怠った。今勝てないのは完全に私自身の、内面の弱さのせいだ。


 

「オーウェン、朗報だ。犯人の居所がわかった」


 部屋に入ってきたリックが教えてくれる。どうやら諜報班が調査してやっと分かったらしい。


 普段なら、というかほとんどの兵士が諜報班が出なければ分からなかったのだから仕方ない、と考えるのだが、今回の私はそうもいかなかった。


「出撃命令は?」


「動ける者は二人以上で出撃して良し、とのことだ。当然行くんだろう?」


「もちろん」


 指定された出撃命令が出なくてよかった。さすがに上官の命令を無視するのはまずい。まだ人命が懸かっているのならまだしも、私の個人的な理由ならば抑えるのが賢明だ。


 すぐに動けるようにはなっている。軍刀を掴むと、すぐに詰所を飛び出す。


 リックが教えてくれた場所はアルタニア地下に広がる水路の一角。確かに身を隠すには絶好の場所だ。水も豊富で犯人には都合がいい。


 地下水路、ちょうどよかった。これならば先達の兵士よりも先に犯人を捕らえることができるかもしれない。


 地下水路は通常であれば入り口が限られている。管理事務所から出ないと中には入れない。しかし、私たちは昔街の子供に忍び込み方を聞いていたのだ。


 遊び歩いていたのが少しでも役に立ってよかった。ほんの少しだけ安心する。気休め程度だが、出来るだけ楽な精神状態で敵と戦いたい。


 地下水路の中は影だらけ。私にとっても悪くない戦場だ。まだ練習中ではあるが、実戦レベルで使えるようにはなった魔術もある。


 地下水路に入ってからは、私を前にして先に進む。リックは自身の気配のほとんどを消しているため、私がもし襲われても反撃で倒せる可能性がある。


 実際、そのために私は機動力を少し犠牲にして服の下に細い鎖で編んだ服を着て耐久力を上げているのだ。


 軍服も合わせてできるだけの付呪がしてあり、一瞬盾になるくらいであればなんとか乗り切れるくらいの堅牢さにはなっている。


 演習以外でこの戦法を使う機会はなかったが、生存のためにもお互いの特性を生かすためにもこれが一番いい。


 ひったくりや喧嘩には対応したことがあるが、戦闘のできる魔術師を相手にした実戦は初めてだ。結果がどうなったとしても私にとっては大きな戦いになるだろう。


 魔力の濃度が濃い方へゆっくりと歩く。地上はほぼ完全に把握しているが、地下水路に関してはよくわかっていない部分もそれなりにある。少し慎重に行かなければ。


 だんだんと魔力の反応が近くなってきた。数分おきに作戦の進行状況を伝える通話宝石を耳から外し、ポケットに仕舞う。


 軍刀を抜いて魔力を込め、即魔術を発動できるようにしてから後ろのリックに突入のハンドサインをする。


 角を左に曲がれば、犯人がいる。足音を消しながらも全速力で突入する。


「帝国軍だ、強盗殺人の容疑で逮捕します!」


 一昔前に流行ったジャケットを来た、腕に大きい歪な形の傷がある男だ。湧き水のように溢れる魔力は既に戦う準備ができている事を示していた。


「大人しく捕まる気はないみたいですね。多少の怪我は覚悟してください」

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