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165:どうしようもない

 アール商会に戻ると、夫人が夕飯を作っていてくれた。異郷の食事が続くと辛いだろうと、少し風味は違うがアイラの料理を出してくれる。


 ガーブルグの料理を楽しむのも悪くはないが、たまにこういう慣れた味がないとふわふわと身体が浮いたような気分になる。


 いわゆるおふくろの味というやつだろう。俺の場合おふくろというよりはキャスと行きつけの食堂なのだが。


 やはりこの国は辛いものを好むのか、調味料も辛みのあるものが多かった。アイラの料理に少し辛いものをかけてみても結構おいしい。帰ったら食堂の女将に置いてくれるよう頼んでみるか。


 緊迫した状況の割にのんびりとした夕食を終えると、部屋まで案内してもらい荷物の整理をする。こちらで仕入れたものは多くないが、アイラではあまり見ない武器や魔道具をいくつか購入した。


 キャスから受け取った内ポケット付きの制服にそれらを詰め込んでいく。やはり長さが少し普段の上着より短いせいで最大容量は小さくなってしまう。


 限られた持ち物に何を入れるか。それを考えるのは結構面白い。道具同士の相乗効果だけではない。使い勝手を考えてしまう場所も決める必要がある。


 しかし、普段から俺の服を使いやすく調整してくれているだけあって、キャスの縫製は完璧だった。俺の出しやすい位置に物が入るようになっている。


 とりあえず、【破】と戦うことを想定して道具を詰め込んだ。まあ魔道具の一つや二つで攻略できるほど易い相手ではないが、ないよりマシだ。数パーセントは勝ちやすくなる。


 一桁、それこそ小数点以下の確率でも、命を懸けるのだから出来る限り上げておきたい。数パーセントの驕りが命取りになるかもしれないのだ。


 胸元のペンダントに魔術が当たって助かった、なんて話はそうそうないけれど、何気なく持ち込んだ魔道具のおかげで事なきを得た同業者の話など飽きるほど聞いた。


「もったいない気もするが、ここを使うか」


 ゲン担ぎというか、こんなときばかり神頼みをするようで少し癪なのだが、使わなそうなものを端の方に入れておくことにしている。


 今まで特に役に立ったこともないし毎回ここに替えの弾でも入れておいた方がいいのではないかと思うのだが、どうにも辞められない。親父に教わってからずっと続けていたからだろうか。


 どんなに策を講じても、人は死ぬときには死ぬ。それが分かっていながらどうしてここまで必死に延命をするのだろうか。死ぬときは何をしても死ぬし、死なないときはどうやっても死ねない。


 死は、人が手を出せる領域の外の概念だ。どうすることもできない。


 それでも人は死に抗う。それこそがヴィアージュの言っていた人間らしさというものなのだろう。ほんの数パーセントが絶望を覆すのがその証左だ。


「元から強い奴はいいな」


 鍵を少し恨めし気に見つめてから、俺は数パーセントをポケットに詰め込むのだった。

次回、166:暗躍する静寂 お楽しみに!

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