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160:撤退

 一瞬の隙を突いて、【破】にかなり強烈な蹴りを入れる。骨に数本ヒビが入ったのが分かる。少し気が引けたがもう一発強撃をお見舞いする。これはかなり痛いはずだ。


 【影】の援護に回り、射撃で撤退の隙を作る。弾丸を受けることで【縛】に布の数本を使わせ、【影】と共に建物の間に逃げ込む。


 銃を向けて警戒しながら進むが、特に追ってくる様子はない。さすがに負傷した相棒を置いて敵二人を追いかけたりはしないだろう。さすがに不利すぎる。


 しかし、俺に隙を作ってくれたのは誰だったのだろうか。特に変わった気配もない、基本の魔術、【魔弾】。


 最初はカイルが支援してくれたのかと思ったが、それにしては精度が甘い。カイルなら警戒されていない状態からなら全弾当ててみせるはずだ。


 それに、カイルは基本的に狙撃に魔術を使わない。【キャッチ・ザ・ワールド】の魔力消費量がかなりのものということもあり、それ以外に魔術を使うことはほとんどない。


 ましてや、こんな相手を前に手を抜いて魔術を使うような男ではない。強力な狙撃銃も持ち込んでいるのだ、それを使わないはずがない。


 だとすれば、あれは誰だったのか。カイル以外で考えられるのはキャスだが、彼女がわざわざこんなところで手を出しはしない。ここでの勝敗ではなく、最終的に勝てるかどうかで物事を判断するタイプだものな。


 キャス本人がわざわざ動くなんていうのは滅多にないことだ。キャスが動くのは最後の手段、自身の戦闘能力が低いことを知っているからこそ、迂闊に手を出して仲間まで危険に巻き込むということを避ける。


 俺達を助けたいのであれば、それこそカイルを寄越す。アーツは宿から動かすべきではないし、敵の位置を把握できるカイルが一番生存率が高い。


 とにかく、今は助かったという事実が重要だ。【破】の怪我は魔術的治療をするにしろ完治まではそれなりにかかる。出来る限り復帰は遅い方がいいのだが。


 とりあえず目立つ傷はみんな治したが、特に熱傷が酷かった。特に腕は炭化しかけるほどに焼けていて、結構まずい状況だった。あの熱で本人は大丈夫なのだろうか。


 基本的に魔術は術者が影響を受けにくいように作られているのだが、どんなに工夫しても身体に纏うタイプの魔術はその影響をなくしきることができない。


 以前氷を纏う魔術師と戦ったことがあるが、戦闘を続けている間にだんだん体温が下がってしまい自滅してしまったはずだ。しかし【破】にそういう様子はなかった。


 余程強靭な身体を持っているのか、魔術で熱の耐性を強化しているのか。どちらにしても尋常な強度ではない。打ち合った感触的に、熱では傷ついていない。


「普段戦うことなどないのであまり実感しませんが、やっぱり強いですね。味方であれば誇らしいですがね」


「あんたもな。俺を助けてくれた時の剣術、素人のものじゃなかった」


 あの時、一発だったはずの斬撃は同時に三か所を切り裂いていた。もしかしたらなにか影関連の魔術が働いているのかもしれないが、それにしても異様だった。


 剣術そのものはヴィアージュやジェイムのような達人の腕ではないが、影を移動する魔術がその強さを補強している。単調なものでも、他のものと組み合わせれば複雑になるのだ。


 魔術なしで戦えば俺が勝つが、魔術を使われると微妙なところだ。かなり勝ち筋が限られてくる。自分の強さを、きちんと自覚しているのだろうか。


 そんな話をしながら、俺達は宿に戻ったのだった。

次回、161:戦略 お楽しみに!

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