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159:均衡

 黒い布。その一つ一つは細く薄い。しかし、束になれば話は違ってくる。俺の周りを渦巻く布は、暗幕のようになって俺を包み込む。


 しかし、俺を包む闇より、もっと昏い闇がそれを切り裂いた。真っ暗な闇。光と相反するもの。光の反対側に存在するもの。


 輝かしさの裏側に絶対に存在する、逃れようのない黒さ。輝けば輝くほどその闇は増し続ける。この一撃は、この帝国の闇だ。


「遅くなりました、加勢します。どうにか撤退させましょう」


 【影】だ。暗幕のような漆黒の布を、さらなる闇で切り裂き俺の許へ降り立った。おそらく布で日陰になった部分を利用したのだろう。


 彼の暗さはこの国の闇を象徴する。大きく、強く、栄華を極めるガーブルグ帝国。しかしその陰では根幹魔力を悉く吸い上げる他の国にはない闇がある。


 その闇を体現するような、影。そして【影】。皮肉にも、闇とされる側がそれを排除しようとしているのだが。


 援護のおかげで黒布の束縛からは逃れることができた。彼の言う通りとりあえず撤退させる隙を探さなければ。


 しかし、どうしたらいいのか。一応戦力が増えたことである程度拮抗できるようにはなっただろうが、決定打がない。


「とりあえず【縛】を頼んだ。【破】は俺が抑えられる」


 今一番大事なのは【破】との戦闘に邪魔が入らないということ。完全に一対一なら負けることはまずない。


 そしてこの二人は分断されてしまうとかなり不利なのは先程までの戦闘で分かった。もちろんこちらの戦力がある程度整っていることが条件だが。


 【縛】は戦闘要員とされているが、その本質は補助役。他人を支援することは得意でも自分一人で戦うのは不得手なはずだ。輝かせるための味方がいてこそ本来の力を発揮する。


 一方で【影】は諜報が役割ではあるが本人の戦闘能力はかなり自己完結している。影に潜るあの魔術も含め、一人で戦う方が強い。


 ただまあ、完結しているというのであれば【破】も割とその方向性の魔術師で、魔力拘束や牽制ために【縛】の力を借りてはいるが、戦闘そのものは一人でも十分だ。


 高速で襲い来る炎腕をいなしながら、どうにかある程度のダメージを叩き込む方法を考える。最悪殺すしかないが、まず殺せるかどうかも微妙なところだ。


 【影】はかなり有利に戦えているようだが、あまり【縛】を傷つけすぎて気絶させたり殺したりしたらまずい。確認はしていないが【影】もそれは分かっているのだろう。


 だからこそ、俺が【破】を負傷させなければいけない。防御で精いっぱいなのに、どうにかできるのだろうか。


 俺だって、攻撃の隙を見計らって攻撃を入れてはいるのだ。しかしちょっと身体能力を強化した程度の一撃では痛いだけだ。戦闘能力に影響はない。


 だからといって何か武器を取り出すような余裕もない。たとえば麻痺毒の塗ってある針。例えばジェイムの短剣に倣ったナイフ。一瞬の隙さえあればなんだってできるのだ。その隙を与えさせないのがプロだが。


 特に麻痺毒の針。一番簡単に取り出せる場所にあるのだ。本当に一瞬でいい、誰か俺に隙を。


 魔術師は、俺のことを支援しにくいのだ。魔力喰いの影響で直接の補助魔術は使用できず、そのうえ環境への魔術も俺に解呪されてしまう可能性が高い。


 まあいわゆる、支援があったら助かるのに支援をしづらいという困ったパターンの人間だ。


 有利とはいえ、【影】も気を抜けない状況ではある。助けを求めるわけにもいかない。


「いい加減、帰ってくれよ……!」


 腕を弾き上げ、数発の打撃を入れながら吐き捨てる。この身体のタフさはどうなっているのか。リリィと変わらないくらいの背丈で、よくもここまでの攻撃に耐えられるものだ。


 一瞬感心した隙を突いて、顔面に強烈な一撃を喰らう。もちろん仰け反った勢いに合わせて足を振り上げ反撃したが、さすがにこれは痛い。


「お主、なかなかやるではないか」


「あんたこそ。半端じゃねぇ腕力だ」


 お互い呻くように言ってから少し間を開ける。近すぎるのも戦いにくいのだ。なにしろ神経を使う。


 そろそろお互い限界だ。魔術の熱気と、心身の疲労。これは我慢比べになってしまいそうだ。


 俺が勝負を自身の体力に委ねようとしたその時だった。帝都外側の森から、数発の魔術が飛んでくる。命中することはなかったが、それは途切れかけていた【破】の集中力を大きく削いでくれた。

次回、160:撤退 お楽しみに!

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