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157:直訴◇

 【影】は皇帝に直訴してくれると言っていた。これはとりあえず。平和的な事件の解決の最初で最後の手段だ。これが決裂すれば一瞬でこの国との戦いが始まる。


 そしてその結果は、実はもうわかっている。交渉は失敗だ。俺の目の前には、軍服を着た少女二人組、メモにあった【破】と【縛】がいる。


挿絵(By みてみん)


 いきなりこんな大物を送り込んでくるとは、向こうもなかなか本気のようだ。メモの実力と、実際の実力は絶対に違う。


「お主か、皇帝陛下の計画を邪魔する賊とやらは」


 小さい方、【破】が声をかけてくる。綺麗な金髪だが、恐ろしいほど眼光が鋭い。圧が実体となって襲ってきそうな雰囲気だ。


 一方その後ろの【縛】に強者特有の覇気はない。どちらかというと人当たりのいい町娘という感じがする。


 まあしかし、二人とも立ち方や出現した位置が素人のそれではない。オーラがないだけで【縛】も舐めてかかったら負ける。


「【縛】、3で頼む」


 【縛】に何かつぶやいた後、【破】の魔力が格段に跳ね上がる。魔術を纏うと聞いていたし、そのために余計に魔力を放出しているのだろう。


 俺も刀を抜く。しかし、【影】の忠告を聞いて帝都の外れに来ておいて良かった。まさか一瞬で本当にここまで来てしまうとは。


 【影】と一緒に俺と接触した兵士たちからの報告によって、俺の顔だけが割れている。一瞬で居場所がバレるからと一人遠くまで逃げてきたが、言葉通りだった。


 しかし、本当に一人でここにきて大丈夫だったのか、今更不安になってくる。何しろ相手は敵軍のトップだ。俺一人では対処しきれない可能性だってある。


 本当は、アーツあたりに一緒に来てもらいたかった。しかし、今回のこの場合アーツは宿を動くことはできない。


 特殊部隊のことをよく知っている【影】を失ってしまえば、後に残るのは対人戦闘には不向きな者ばかりだ。ハイネなんかは得意分野だが、味方をカバーできるほどの爆発力は持ち合わせていない。


 それでまあ、対人戦闘慣れしている俺がここに一人、宿では全員固まって会敵に備えているというわけだ。こちらにも【影】が来てくれることにはなっている。


 とりあえず、一度撤退するチャンスが来るまでは耐えるしかないか。


「オオオオオオオオッ!」


 【破】がすごい勢いで炎を纏った拳を叩きつけてくる。とっさに低く横跳びして避けるが、熱気で髪が少し焦げた。まるで獣のようだ。


「ほう、妾の初撃を避けるとは。なかなかの腕はあるようだ」


 半分予測込みの回避を褒められても。反射神経だけに任せていたらモロに貰っていた。速くて重さのある一撃、さすがに恐ろしい。


 しかし、あの速さ。自身の後ろで爆発を多重に起こすことで爆風を受け、それにより加速している。もちろん身体能力も相当のものだが、この自傷のような攻撃、思っている以上に手強いかもしれない。


「もう……一撃ッ!」


 追加の一撃をギリギリのところで躱すと、後ろに回り込み背中に刀を振り下ろす。しかし、刀は振り上げたその地点から動かない。


「ナイスアシスト」


 俺の刀は黒い布のようなもので拘束され、動けなくなっていた。この魔術の出所は十中八九【縛】だろう。拳の威力に気をとられて完全に意識の外に出てしまっていた。


 身動きの取れなくなった俺に【破】の追撃が迫る。明らかに炎の量も増しているし、確実に当てるつもりだろう。


「させねぇ……よッ!」


 身体が平行になるまで飛び上がると、【破】の腕より長くなったリーチで頭部に全力の蹴りを入れる。もちろんガードされてしまったが、30m程先に吹き飛ばすことはできた。


 【破】の弱点は近接戦闘向きながら敵の近くにいると本来の力を発揮できなくなること。爆発による加速で相手の捕捉可能な速度を超えることで高威力の一撃を叩き込めるのに、あまり近いと十分な加速ができない。強さと環境が噛み合っていないのだ。


 彼女にとって初撃を当てるというのは大事なことなのだ。初撃さえ当ててしまえば、相手に攻撃の機会は訪れない。


 受けて吹き飛べば再び超高速の追撃を受け、その場で耐えたとしても拳の連打が来る。それゆえ最初に喰らいさえしなければせいぜい少し速い程度の拳闘使いだ。避けられてラッキーだった。


 俺は刀を拘束していた魔術を拳銃の連射で破壊すると、起き上がった【破】の許に走る。切羽詰まって吹き飛ばし過ぎたが、あまり距離ができるのは好ましくない。


 しかし、先程の布のような魔術が追ってきてなかなか早く走ることができない。これと拳、同時に来たら結構苦しい。【縛】は【破】のことをよくカバーしている。


 【影】が来る気配はない。この戦闘は、まだ終わりそうになかった。

次回、158:滾る炎腕 お楽しみに!

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