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14:禁呪

「ずっと聞こうと思ってたんだが、その鎖、どういう魔術なんだ?」


 聞こう聞こうと思って忘れていた。あんな魔術見たことがない。どうせ親衛隊のように秘匿されたりなんだり、一部にしか知られていないものなのだろう。


「禁呪さ、名を【アダマントチェインズ】。魔力を寄せ付けない金属で作られた、随意に操れる鎖。便利だろう?」


 禁呪、そうだったか。魔術を極めた者だけが生み出せる秘宝にして呪いの品。自分の得意魔術を結晶化することで、受け継ぐことができるもの。


 唯一にして最大の欠点を挙げるとすれば、禁呪を産んだ者とほぼ同一人物といえるだけの魔力を持っていなければ重大な後遺症を背負うことになる。他の魔術の行使が一才できなくなるという、これ以上ない欠陥を。


 おまけで言うなら禁呪は二つ以上取り込めない。他の魔術行使が出来なくなるのだから当たり前だが。


「一つの魔術を究めるってのは、どんな気持ちなんだ?」


 魔術が使えない、という一点では俺と変わらないが、俺とアーツではその方向性が違う。一つの魔術を極限まで使いこなすアーツと、使えるものならなんでも使う俺。似て非なるものだ。


「俺の中の禁呪は一つじゃないからなぁ。ま、後々紹介するよ」


 なんだか馬鹿らしくなって口を閉じる。この男におおよそ常識というものを期待してはいけない。俺以上におかしな奴の集まりの主宰なのだ。


 が、そればかりを見ていても仕方がない。彼の態度から見るとさして苦労をしていないように見えるが、禁呪の刻印は一度でも相当の苦痛を伴う可能性もあるという。それを複数回、考えたくもない。


 それに先ほどの戦闘でも感じた彼の魔力、混沌としていた。おそらくは複数の禁呪を取り込んだことで変質したのだろう。


「それで、これからどうする」


 なんてことを考えても仕方がない。今はまず、アイラ王国を蝕みつつある動乱をどうにかしないと。


「とりあえず俺たちは南下して諸侯軍を足止めしよう。王都で合流されれば取り返しのつかない被害になる」


 意外だ。王都にいる指示役を叩くのかと思っていたが、そうではないらしい。いや、そちらは親衛隊に任せてしまえばいいということだろうか。


 アーツがどこからか連れてきた馬に跨って王都を出る。衝突が予想されるパリス平野までは全力で走っても1時間と少しかかる。なかなかハードな行軍になりそうだ。


 なにせ、王都で主に活動していた俺からすると馬に乗るのも楽なことではない。どんな移動をするにも馬なんて使ったことがないし、そもそも馬を借りる余裕がなかった。


 徐々に痛み始める脚と尻を宥めながら駆ける。しばらく進むと少しずつ景色が変わっていくのがわかる。急ぐというのも面白いものだ。


 南下していくにつれて少しずつ土地が痩せ、植物の元気も失せているようだ。この土地が、今回の革命の引き金になったと考えると少し同情する。住みやすさ、生きやすさには相当の差があるだろう。


 荒野と呼んでもいいくらいの街道を抜けて、その先に見えてくる石造りの建物。これこそパリス要塞。国を南北に貫く街道を守る関を兼ねた要塞だ。


 革命派としてはここを陥落して王都への足がかりにしたいのだろう。その攻勢は激しい。王家のペンダントを振り回しながら要塞の中に転がり込む。


「こりゃ酷い。士気の差がモロに出てるね。それに……」


 平原に陣を構えた革命派は要塞からある程度距離を取りながら繰り返し飽和攻撃を加えている。対応が遅れたせいもあってか、前線はほぼ壊滅。外壁も相当削られてしまっているような状態だ。もう少しすれば陣を前進させ乗り込んできてもおかしくないだろう。


「リリィちゃん、手前に適当に魔法撃って牽制してね。レイくんは指揮官を的確に刈ってくれ」


「了解、リリィの攻撃に紛れて飛ぶ」


 リリィと一緒に要塞の上の方まで駆け上がり、屋根に足をかける。


「頼んだぜ」


「解ってる」


 身体補強(フィジカル・シフト)の出力を脚に集中させる。煌めきと衝撃。リリィの光が大地に降り注いだその瞬間に跳び上がる。


 空中で姿勢を制御し、運動能力に振り切った出力を頑強さに切り替える。こうでもしなければ着地の瞬間に両脚が砕ける。


 美しい、殺戮の力の籠った凶暴な光をすり抜けながら跳ぶ。こうして煌々と光に包まれていると、まるで祝福を受けているようだ。だが、そんな生やさしいものではない。


 これは始まりの鉄槌だ。身体が重力に従い始めたところで刀を抜き、構える。奇しくも前王を屠った時と同じ、空中からの奇襲。


 散る鮮血。あの時と同じだ。


 近くにいた副官も同時に斬り伏せると、混乱はもう抑えきれないところまで伝播する。急に光が降ってきて、同時に指揮官すら死んだのだから。


 我先にと撤退する兵士たちに逆らいながら要塞に戻る。こちらの様子を伺うリリィに手を振り無事を伝えようとした、そのとき。


「おっと、危ねぇな」


 明らかに俺を狙って飛来した、扉。要塞の扉が内側から破壊されて、俺を殺すために飛んできた。当たっていたらタダでは済まなかっただろう。


「禁呪はアーツ室長の専売特許じゃないからね」


 フードの中で、歪んだ笑みが見えた気がした。こいつは危険だと、俺の全てが告げていた。

レイの危機感は最大限まで引き上がる。

この襲撃者の正体は……。


次回、15:反時計回り《カウンタークロックワイズ》 お楽しみに!

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