156:魔力炉計画
宿に戻ると、まだ【影】は特務分室と行動を共にしていた。ちょうどいい、研究所で見たことを聞かせてもらおう。
「やあレイくん、ずいぶんのんびり話してたんだね。何かあったのかい?」
「いや、話はすぐ済んだ。遅くなったのは魔力抽出の現場であろう場所を見つけたからだ」
「それは……本当かい?」
アーツの眼が細められる。何か考えているのだろう。とりあえず、【影】とアーツの二人に先程あったことを話すことにした。
「なるほど、【静】にそんな命令が下っていたとは。彼は同期でね、何度か組んだこともあるんですよ」
やはり、関係は悪くないようだ。まあ特務分室みたいなものか。俺達よりはあまり接触は多くないようだが。
しかし、国の上層部が絡んでいるとなれば対立は避けられないだろう。そう考えると少し複雑な気分になる。
「そうですね、かつて友と呼び合えた者たちと戦うのは心苦しいです。しかし、どんなに心が痛もうと、ここにはやらねばならぬことがあります」
鋼の意思というか、よくもここまでの決意ができる。もしかしたら、そのためのこの距離感なのかもしれない。もしもの時、躊躇なく殺せるように。
「しかし、かなり大きな計画のようだがそちらに全く情報は行っていないのか?」
「おそらく『魔力炉計画』として伝えられたのがこれでしょうね。魔力関係の計画はこれしかないので私も研究所を疑ったのですが……」
魔力炉計画、か。確かに嘘ではない。そのやり方が無から作り出すというのとあるものを無理矢理引き出すという違いこそあるが。
それにしても、やるならば何かしら手を打っておくべきだった。爆弾でも設置しておけば破壊できただろうに。俺は当時そんなもの持ち合わせてはいなかったのだが。
それにしても、特殊部隊と戦うことになるのか。一筋縄ではいかない相手だろう。今回も骨が折れそうだ。
その後俺達は【影】から特殊部隊全員のある程度の能力が書かれたメモを貰い自室に戻った。
しかしまあ、よくもここまでの人材を集めたものだ。アーツもなかなか強力な人材を集めてはいるが、これはもはや過剰戦力なのではないかという程に強い。
【影】の他に所属しているのは四人。先程会った【静】以外はみんな戦闘要員のようで、つまり俺が見たことのある二人は中では弱い方ということだ。
まずは【静】。風と隠密系の魔術が得意で諜報や暗殺をこなす。確かにあの気配のなさは異常だった。無警戒の状態で襲われたら絶対に死ぬ。
あれは魔術だけで為せることではない。魔術と同等、いやそれ以上に自分の気配を消す術を知っている。あれはそういう動きだった。
次に【破】と【縛】。少女二人組で、いつも行動を共にしているという。【破】が年下、【縛】が年上で、【破】はとにかく強いのだとか。
なぜここだけ記述が曖昧なのだろうか。あの【影】がとにかく強いだなんて書くのは少しイメージと違う。
【破】の得意分野は炎。自身に魔術を付呪する戦法だということしか分からない。立ち回りや体術が優れているのだろうか。
一方【縛】は拘束系を得意とするらしい。しかし、少し変だ。他の者と比べると基本的な戦闘能力も低そうだし戦果も少ない。あくまで戦闘補助なのだろうか。
そして最後に【滅】。特殊部隊の隊長その人。大地の神の祝福を受けた巨人の血を引いており、身長5mはある大男だという。
その巨人由来の力は凄まじく、魔術戦より肉弾戦を得意とするのだとか。恐ろしいことに地面に触れている間は無類の回復能力を誇るのだとか。
確か『蒼銀団』が召喚した巨人にも再生能力が備わっていたか。あの時のようにカイルが頭を吹き飛ばすだけで済めばいいのだが。
「レイ、ごはんだよ」
明日からは余計に忙しくなる。食事は活力の補給だ。俺はそう思いながらリリィの呼び声に応えて食堂へ向かうのであった。
次回、157:直訴 お楽しみに!