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154:地底の扉

 戻ってきた思考力で、先程言われたことを思い出す。彼女は【キョ】と現世の扉と言っていた。そして星の中身はここに、とも。


 彼女の向こう側に、異界がある。可能性の渦にして全ての現実を砕く終わりの世界。【キョ】とはおそらく【虚】。旧い呼び方にそういうものがあった気がする。


 俺は急いで周りの資料を漁る。ここに、根幹魔力を奪う何かの手掛かりがあるかもしれない。というより、ここにほぼ確実にある。


 おそらくここは世界の根幹に最も近い場所だろう。星を人体に例えるならば、ここは心臓だ。渦となって脈打つこの星の可能性を、俺は見ている。


 しかし、ガーブルグ帝国の研究者たちもよくここまで辿り着いたものだ。【虚】、今は確定していないから【キョ】ということにしておくか。そこに接続するのはただ近付けばいいという話ではない。


 そこの壁を打ち破れば【キョ】に到達することは可能だ。しかし、何者にもなっていない無の中に飛び込めば、自分自身も瞬時に同化する。何かをするなんてことも不可能だ。


 だからこそあちらとこちら、二つの世界を繋ぐ扉が必要なのだ。それが彼女なのだろう。


俺は魔力がないから念写はできないが、記憶力はいくらか自信がある。訳の分からない単語も何もかも、頭に詰め込む。


 しばらくして、上の方から足音が響いてきた。そろそろ頃合い、というか少し手遅れだったか。俺はとりあえず物陰に身を隠してこちらへ来る何者かを待つ。


「しかし、ユニもこの研究に参加してくれれば良かったんだがな」


「仕方ないさ、あいつはあくまで正方向の研究者。いくら優秀とはいえ専門外の負世界には手が出せないだろうよ」


「それもそうか。あいつが負方向の研究をしてくれていたらな」


 向かってくるのは二人か。当然だがこの部屋で研究をしているうちの一部なのだろう。


 それにしても、負世界か。さっき読んだ資料によれば、世界の正負というのは魔術の方向を示すそれとは少し違うらしい。


 正世界というのは俺達のいるここ。そして負世界が【キョ】。正になる前の負ということなのだろう。さしずめ彼女、イザベラは0といったところか。


 やはりあの歳でリーダーを任せられるくらいだから、ユニは優秀なのだ。これに参加していなくて本当に良かった。


 しかし、負世界の研究などをメインでやっている人間はそんなに多いのだろうか。少なくともアイラではそんな話は聞いたことがない。


 まず俺自身が正世界・負世界なんて言葉を聞くのが初めてなのだ。ガーブルグ帝国ではメジャーな研究対象だったりするのだろうか。後で【影】に聞いてみよう。


 しかし、彼らが入ってきたらどうしようか。身を隠しているとはいえ、さすがに隠れきれるような広さはない。部屋に入ってくれば一瞬で見つかってしまうだろう。


 しかし事情を正直に話して出してもらう、なんてこともできるわけがない。ここはもう、死人に口なしということで殺すしかない。


 血が飛び散ってはまずいから、銃を二本の毒針に持ち替えると息を潜める。かなり即効性で効き目も強い毒だ。おそらく即死だろう。


 研究者たちが部屋に入ってきた瞬間、首筋目がけて針を投げる。針が刺さったのと同時にぱたりと倒れ、そのままぴくりとも動かない。上手くいったか。


 しかし、俺はその後すぐに自分の判断が間違っていたと気付いたのだ。俺の視線の先には、気配もなくこちらに来ていたもう一人がいたのだから。

次回、155:予期せぬ3人目 お楽しみに!

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