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152:かの者の眼

『観測者』と聞いて、俺はある可能性を求めて適当な扉を探した。すると廊下の奥に立ち入り厳禁と書かれた扉を見つける。ここがちょうどいい、中には入らないし別にいいだろう。


 一応見つかるとまずいので、あたりを見回してから鍵を回す。


 開いた扉を急いで閉めると、少し落ち着いてから奥へと進む。その先では彼女がいつもと変わらない様子で寝そべっていた。


「ヴィアージュ、あんたにちょっと聞きたいことがある」


 いつもと変わらなくはなかった。少しけだるげと言うか、眠そうな感じがする。体調でも悪いのだろうか。


 まさかクリスの事件を解決する際に現世に呼んだダメージがまだ残っているとか。それだったら申し訳ない。


「すまないね、昨日暇つぶしにグラシールと話していたら案外盛り上がってしまって。少し寝不足なんだ」


 なんだそれは。通話宝石を買ってもらったばかりの子供が夜遅くまで友達と話していて翌日学校に寝坊してしまった、みたいな話は。


 神代を生き延びた英雄だろうに、どうしてこうも子供っぽいのだろうか。もちろん、剣術も先見の明も素晴らしいものがあると思う。こういう行動でみんな台無しだが。


「ああそれで、あんたの作った聖遺物の中に星のレプリカがないか聞きたいんだ」


「星の複製かー、そんなのあったかなぁ? あ、【義眼】はそんな感じの機能あったはず」


 ヴィアージュが指折り数えながらああでもないこうでもないと言っている中、聞き覚えのある単語が通り過ぎる。


「【義眼】だって?」


「うん。【観測者の義眼】なんて呼ばれることもあるね。君のところの室長さんが持ってるよね」


 まさか、そんなすぐ近くにそんな重要なものがあったとは。灯台下暗しというのはまさにこのことだ。


 しかし、そんな大事なことにアーツが気付かないなんてことあるだろうか。【影】を警戒して手札を明かさなかったのか。しかしそれにしても何かがおかしい。


 アーツにも気付けない原因が、何かあの聖遺物にあったのだろうか。


「うーんでも、星のレプリカとして使うには片割れがないからね。そういうようには機能しないよ」


「片割れ?」


「ああ、私の【義眼】は二つ一組でね。まあ眼なんだから当然なんだけど、二つ揃わないと世界には接続できない。片目を閉じると世界が不完全になるのと同じさ」


 つまり、俺達が魔力を観測している【観測者の義眼】は、まだ片方だけ。片目でしか見ていないのと同義なのか。それで真の力を発揮できていない訳だ。


 でも、そうするとなにか別の手段で犯人は根幹魔力を吸い上げていることになる。


 具体的な方法はわからなくとも、世界に接続することが難しいのは広く知られている。俺達が暮らしているのは星の表面。外側に形作られた模様の上に立っているに過ぎない。


 世界にとっては薄い表面も、俺達にとっては分厚く硬い。それは物理的なものだけでなく、概念的にもだ。


 曰く、地底は異界だという。無でありながら全。白でありながら黒。善でありながら悪。そこから零れ落ちた色が、見えるところに表出する。


 可能性の渦とも呼ばれるその異界は、可能性で満ちている反面人という概念が存在しない。なぜならそこにあるのは可能性だけだから。形になったものはそこでは在れないのだ。


 そしてそのエネルギーが根幹魔力。つまり世界から魔力を引き出すというのは常識の通じない異界に接続するということなのだ。


「なあ、ヴィアージュ。世界に接続する方法に、当てはないか?」


「いや、私はそのあたり専門じゃなくてね。事情があってわからないのさ。力になれなくてすまないね」


「問題ない。参考になった、ありがとう」


 腸詰を少し渡してから部屋を出る。いつも世話になっているほんのお礼だ。ぐっすり眠っておいしい腸詰を食べて元気を出してほしい。


 扉を閉める。が、まずい。足音がこちらに近づいて来ている。誰かがここを通るようだ。さすがにこの状況で見つかると言い逃れできない。後ろのドアは……。


「よし、開いてる」


 立ち入り禁止と書いている割に不用心な。しかし開いていて助かった。俺は部屋にそっと忍び込む。

次回、153:秘密の部屋 お楽しみに!

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