表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/758

147:【影】

 影を移動する魔術、それは確かに諜報などにおいて無類の強さを発揮するだろう。あれを捕捉することはできない。しかも、捕捉できたとしてそれをどうにかする手段を誰も持たない。


 俺個人としては協力してほしい。はっきり言ってこの国ではキャスの顔の広さもほとんど役に立たない。ましてや根幹魔力の減少なんて話簡単に聞けるわけがない。


 少し話をしてから別れ、宿へと向かう。果たして他の皆は彼との協力を承諾してくれるだろうか。


 出た時のように窓から部屋に入り、装備を外してまとめてからアーツの部屋に向かう。だが、先客がいたようで部屋から声が少し漏れてしまっている。


 盗み聞きするのは悪いと思ったが、少し気になってしまい聞き耳を立てる。すると僅かにだがその内容が聞こえてきた。


『本当かい?』


『絶対的な確信はないけど、あたしにはわかる』


 どうやら話し相手はキャスのようだ。二人の会話にはよく理解できないことが多いから、余計に気になる。一体何を知っているのだろうか。


『しかし、神話領域外の扉ね。開けさせないのが一番かな、倒されたという記録も、戦った記録もない以上弱点が全く分からない』


『だけど、そのための魔力はどう補う? アーツ、あんたの魔力でも全然足りてないよ』


『そのための犯人捜しだよ。根幹魔力を補填して、どうにかアレを食い止めるさ』


 神話領域外。今まで聞いたことのない言葉だが、その意味はなんとなく分かる。信仰を棄てたとか、そういう生半可なものではない。


 それはおそらく、もはや異界の領域に至るであろうこの世界と隣り合った別の世界。死後の世界のようなものだろう。隣にありながら絶対に行き来のできない、こことは違う世界。


 その扉が開かれるというのか。アーツの言っていた通り、神話の外にある生命ということは、神の威光も英雄の伝説も関係ない。何人をも殺す剣であっても殺すことができないかもしれないのだ。


「さて、俺達の話は終わったけど、何か御用かな?」


 少し考えているうちに、アーツがドアを開けてこちらを見つめていた。なんだ、気付かれていたのか。癖で足音も気配もほとんど消しているというのに、鋭い。


「悪い。ちょっと相談したいことがあってな」


 そう言うと、アーツは部屋に俺を通してくれる。部屋の中にはやはりキャスの姿があった。俺はキャスの隣に腰を下ろすと、二人に【影】との協力の旨を伝える。


「どうだろうか。悪くない話だと思うんだが」


「確かに、そんな人と協力できるんだったら心強い。でもまあ俺は少し心配症でね、明日実際に会って決めたいんだけどいいかな?」


「ああ。そうしてくれ」


 俺の話だけではアーツの知略も十分に働かないだろう。それはクリスの魔術に囚われていた時に痛感した。できるだけ正確で大量の情報が必要だ。


「それで、神話領域外ってのは何なんだ? 差し支えなければ聞かせてほしいんだが」


「いいとも。隠すようなことでもないしね」


 そう言ってアーツは聖遺物【観測者の義眼】を取り出す。なにやら浮き出た紋章を操作して輝きの様子を変えると、話し始める。


「これは神話領域を観測する道具なんだ。だから、この領域に扉でもできればすぐに分かるんだけどね、これのログを遡ってみると、それこそ神が生まれたような時代にその扉が存在していたことが分かったんだ」


 説明に合わせて聖遺物の様子が変化していく。これがアーツの言うログを遡るということなのだろう。


 示された位置には、確かに空虚な穴のようなものが存在していた。これがさっき言っていた神話領域外の扉というものなのだろうか。


「そしてこの先には、神すら手に負えなかった怪物たちがいると言われているんだ。要は神話世界の廃棄物さ。ゴミをゴミ箱に投げて、蓋をしたんだね」


「まあその蓋を維持するには結構な量の魔力が必要でな、根幹魔力の減った今、その怪物が溢れ出るんじゃないかって懸念があるのさ。レイ坊も調子に乗って魔力食い過ぎるんじゃないぞ?」


 神に棄てられた怪物か、いかにも厄介そうだ。特務分室や親衛隊といえども、神の手に負えなかったそれを倒すのは難しい。アーツの言っていた通り扉を開けさせないのが一番だろう。


「そのためにも、根幹魔力を取り戻さなければいけない。か」


 アーツが自分からここまで出向こうと言った理由がやっとわかった気がした。【蒼銀団(アビス・インディゴ)】を泳がせるのも、ただのついでだったということか。


「そういうこと。じゃあ、明日からも頑張っていこう」


 知って得した気分はしなかったが、知らなかったら損をしていただろうと思う。アーツの言う通り、扉の解放を阻止するため、出来ることをするしかない。期せずして、少しだけやる気が出てしまった。

次回、148:対面 お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ