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13:対立

 敵意、殺意、そして純然かつ圧倒的な量の魔力。それに感応されたのか、リリィが目を覚ます。この状態で起きなかったらもう外的要因で起こすことは不可能だろう。


「あれは……」


 つぶやいたリリィが俺の背中からするすると降りていく。そして彼女自身も少しずつ魔力を放ち始める。


 少し遅れて、彼ら、正しくは屋根の上に立つ三人の人影の正体に気が付く。親衛隊だ。互いに顔が知れているからなのか、今日はフードをしていない。数としては同じ三対三だが、個人の力量を込みにするとその戦力が等しいといえるかどうか。


「……お前は……! 前王陛下とハーグ団長を手にかけた……!」


「そ、俺がスカウトしたの」


 ただでさえ苛烈だった敵意が、憎悪に近いものにまで膨れ上がる。親衛隊の守るべき国王と、誇りたる団長。その二人を殺した張本人が、ここに揃っているのだから。


「やはり、イッカ団長の判断は正しかった。人をも手段としか捉えられない貴様に、もはやこの国は任せられん」


 瞳も髪も塗りつぶしたように青い、俺より少し上くらいの男。アーツよりも少しばかり上に見える。


「この副長ランカスが、イッカ団長の名を受け独断粛清権を以て貴様らを裁く」


 定規で線を引いたような、奇妙な雰囲気。しかしその異質さは不気味以外の何でもない。もちろんその異質さはこの男だけではない。


「あたしはシャル。同じくあんたらを殺しに来たよ」


 背の高い女。目は鷹のように鋭く、眼光だけで身体に穴が空いてしまいそうだ。異様な数の銃を携えているが、重そうな様子はない。


「同じく、ベルフォード」


 目隠しをした男。こちらも随分と重そうな手甲を右腕に装着しているが、やはり重そうではない。両方重力石でも埋め込んでいるのだろうか。


 三人はすでに戦意横溢。俺も刀を抜く。


「ねえ、俺たちに勝ちに来たの?」


「当然だ。残る二名の排除にも、別働隊が向かっている」


 笑う。どんな芸を見たときよりも愉快そうに。その笑顔と声に呼応するように魔力が膨れ上がっていく。その目は妖しく輝き、呪いの込められた宝石のように禍々しく、そして美しかった。


「君ら、本当にそう思えるほど、それほどに愚かなのかい?」


 揺るがぬ自信。不敵な笑みはもはやそれ自体が覇気、威圧の領域だ。力の差をありありと示す化け物の、勝利を確信した咆哮。親衛隊の三人だけではない。俺たちすら、その勢いに気圧されていた。


「舐めやがって!!」


 突如空中に大量展開される銃。親衛隊の女、シャルの魔術だ。理屈はわからないが、空中に銃が浮遊している。そして当然のように、その全門が火を吹く。


 いや、正しくは火ではない。魔力だ。リリィが持っているのと同じ魔導銃を、この女も使っているのだ。


「任せて」


 静かに言ったリリィが。


 閃光。


 そして、吹き荒れる嵐。一度に大量の魔力を解放し、幼気なその風貌からは想像できないほどの威力でシャルの攻撃を無に帰する。いや、むしろその腕に大きな傷を入れている。


「下がれッ! ……終末飾りし滅神の業火よ、地を覆う災禍となりて我に仇なす咎人を裁け」


 アーツが殺した団長、ハーグの使っていた魔術。それが副長のランカスの腕から放たれた。彼から教わった魔術であろうことは疑いようもないが、それでも使えるだけで偉業だろう。


 高度な魔術になればなるほど、持ち合わせている魔力がその魔術に適している必要がある。この男、少なくとも太古を生きた魔法使いのハーグに比肩するだけの魔力を持っている。


 俺たちを喰らおうとする炎に、再び腕の大火傷を覚悟する。が、俺よりも先に飛び出たのはアーツだった。正しくは、彼の鎖。


 燃え盛る炎の中に撃ち込まれた鎖。炎はそれを避けるようにうねり、ひれ伏す。鎖はそのままランカスの肩へ。


「自分で自分を焼く気分はどうだい?」


 鎖を巻き戻し、それに引きずられたランカスは炎の海へ。こんなにも残酷なやり方があっただろうか。


「……!」


 消える炎とともに、ランカスが地面に叩きつけられる。あれだけ大きな魔術を途中で完全にキャンセルしたとなれば、身体中の魔力が狂い、暴れ回っているはずだ。全力で走っているところで、いきなり立ち止まったようなもの。


「万物縛りし神の腕よ、その力制約をほどきて地に大いなる錘を」


 慌てたように目隠しの男、ベルフォードが魔術を唱える。とてつもなく重いものが降ってくるような感覚が、一瞬で消える。


「そうか、重力魔術は空間に対して発動するものだものね。レイくんには効かないわけだ」


 なるほど、俺がいる空間の重力を増幅させても俺の力があれば無効化できるのか。俺の安堵と同時に歯噛みするベルフォード。そんな彼よりも速く。


「聖なる素よ」


 ランカスが呟くように魔術を放つ。忠義のため、任務のため、身体中を荒れまわる魔力に耐え、地を這う屈辱を受けてなお、持ちうる力を全て込めて【魔弾】を放ったのだ。


 その意気は見事だ。真の忠義者というのはこういう男のことを言うのだろう。が、それは結構、しかし俺たちには俺たちの戦いがある。突き出した俺の左手が、アーツに届く前に【魔弾】を消し去る。


「ねえ君たち、まだやるの?」


 なお自信の衰えない、いやむしろ強くなるアーツ。彼がひらひらと手を振ると、ベルフォードの胸に小さな穴が開く。


 リリィだ。彼女が魔導銃で撃ち抜いたのだ。音のない一閃で、戦いはひとまず終わりを迎えた。

圧倒的な力を持つアーツ。彼の魔術の正体とは。


次回、14:禁呪 お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] アーツさんて、もしかして別格に強い!?( ゜Д゜) 親衛隊と特務分室との戦いの最中に憲兵団まで乱入してきて混戦かと思ったけど、アーツさんがいることで安心感がある!!
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