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145:帝都の影

 軍の制服と同じ色のマントと帽子。細身な印象だが足の運びなどから目の前の男が素人ではないのが分かる。マントの裾から見える鞘からも何かを感じる。


「誰だ。俺はレイ、アイラ王国から来た」


 まずは俺から名乗ると、男は帽子を取って俺に顔を見せる。後ろで結った、少し長い茶髪。見えているのか不安になるほどの細い眼。声の通り、穏やかな印象の男だった。


「私は帝国軍特殊部隊の一人、コードネーム【影】。訳あって名前はここでは明かせません、お許しください」


 帝国軍特殊部隊、ガーブルグ・グロリアスとも呼ばれる魔術師集団の一人か。ずいぶん厄介なものに目を付けられてしまった。


 兵士からの視線は未だ鋭く、多方から俺を突き刺すようだ。殺気には慣れているとはいえ気分はよくない。


「君達、そんなに睨みつけるのはやめなさい。相手が敵だと分かるまでは友人として接するべきだ」


 感謝していいんだか悪いんだか。確かに俺への視線はいくらか穏やかになった。それ自体はありがたいことだが、彼は敵に対してはとことん苛烈なタイプだ。


 それは、『相手が敵だと分かるまでは』という言葉からも滲み出ている。敵になるまでは優しくというのは、敵になれば何をしてもいいという態度の裏返しだ。はっきり言って戦いたくない。


 おそらく、彼は俺を敵とみなした瞬間襲い掛かってくるだろう。嘘は言わず、真摯に対応する。そしてダメならすぐ逃げる。一応緊急脱出用に普段から煙幕魔術の符はすぐ使えるようにしてあるのだ。


「さて、レイさんだったかな。ここに来た目的を聞かせてもらってもいいかな?」


 一瞬、適当な差し障りのないことを言おうか悩む。それで見逃してもらえるならそれでいい。しかし、そうはいかないか。その場凌ぎの嘘が通じない目をしている。


「ここ数年根幹魔力が大幅に減っていてな、今回はその調査に来た。国自体には興味はない」


 もしかしたらアーツは何かしら考えているのかもしれないが、少なくとも俺はガーブルグ帝国と戦争しようなんて気はさらさらない。その思いは国に来てから余計に強くなった。


 狙撃礼装を量産できればあるいは、と俺も思ったこともあった。実際一対一ならばかなり有利に戦えるだろう。しかし、礼装での優位で物量差を凌げるか。否だろう。


 国を守る気はあっても、ここを攻める気はない。威力偵察などではないことを知って欲しかった。


俺の話を聞いた男の眉間に皺が寄る。何かまずいことでも言ってしまったか。よく考えれば魔力を収集しているのが帝国軍ならまずいか。俺は静かに身体に力を込める。


「少し、話を聞かせてください。皆は普段の哨戒任務に戻れ」


 男の指示に、兵士たちは敬礼をしてから大通りの方へと戻っていく。そして兵士の足音が遠くなってから話し始める。


「アイラ王国にもそれに気付かれている方がいたとは。私も個人的に、その問題について調査しているのです」


 まあそれはこちらのセリフなのだが。むしろガーブルグ帝国にいる方が土壌の魔力量が変化していない分気付きにくいだろう。よく気付いたものだ。


 お互い少しずつ情報を出し合い互いに知っていることを整理していったが、わかっていることはお互い大して変わらなかった。せいぜい帝立研究所が怪しいといったくらいが新たな発見だ。


「もしよかったら、一時的に協力しませんか? 私の職はかなり権限もありますし、お役に立てると思いますが……」


 確かに魅力的な提案だ。軍の特殊部隊、しかも俺達のような暗部組織ではなく親衛隊に近い軍の顔的組織だ。協力できるのならばしたい。


「俺一人で決められることじゃない。明日の朝にまたここに来てくれないか」


「解りました。それでですね、順序が違うとは思うのですがお願いしたいことがありまして……」


 男が少し申し訳なさそうに言う。何か俺に頼みたいことでもあるのだろうか。それにしても、順番が違うというのはどういうことだろう。


「どうした、出来ることなら聞くが」


男はおもむろにマントを脱ぎだし、制服姿になる。そのままマントを畳んで地面に置くと、少し笑う。


「そのですね、貴方を試すようで申し訳ないんですが、私と軽く手合わせしてもらえませんか?」


次回、146:影融 お楽しみに!

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