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142:根幹魔力◇

────これは、己の在り方を問う旅路。


世界最大の規模を誇るガーブルグ帝国。

根幹魔力の簒奪者を追うため、レイたちは密かに世界最強国に乗り込む。

立ちはだかるは栄光の守護者。

灯のない夜に閃く月は、誰の袂に微笑むのか。


第4章 《悠久闇夜帝国》 開幕。

挿絵(By みてみん)


 アルタイル狙撃事件が解決して数日後、俺達はアーツに呼び出されて全員集まっていた。アーツがこうするということは何か大事な話でもあるのだろう。


「突然だが諸君、悪い知らせだ。根幹魔力が全く増えていない」


 根幹魔力。そういえば、俺はこれが減っていることについての謎を追うという名目で特務分室に入ったのだった。むしろアーツの真の目的の方が気になってすっかり忘れていた。


「膨大な量の魔力っす、この短期間では増えないんじゃないすか?」


 もっともだ。数千年の時の流れの間に蓄積された魔力が、そう簡単に増えるわけがない。一年で何パーセント分増えるだろうか。


 それこそ、小数点以下とかそういうレベルの割合のはずだ。数千年のうちのたかが一年、単純計算で数千分の一だ。


「いや、一日でだってほんの少しは増える。そして【観測者の義眼】はどんな小さな魔力量の変化も見逃さない」


 そんなにすごい聖遺物だったのか、これ。本当に少しも根幹魔力が増えていないのだとすれば、その原因は星の機能不全か、もしくは誰かが未だ根幹魔力の回収を辞めていないかのどちらかだ。


 もともとほとんどを持って行った犯人がいるわけで、可能性的には後者の方があり得るだろう。しかし、そんな大量の魔力をどのように使うのか。


「根幹魔力は星の維持可能理論値ギリギリをキープしている。犯人も確信犯だろうね。そして一番怪しいのがガーブルグ帝国だ」


 確か、ガーブルグ帝国の土壌からは魔力が枯渇していなかったのだったか。まあそこに犯人がいるというのはほぼ間違いないだろう。そんなこと子供だってわかる。


 つまり、そういうことか。俺達の次の任務は。


「ガーブルグ帝国に入り、根幹魔力泥棒を突き止めようじゃないか」


「ガーブルグっておいしいごはんある?」


 微妙に目を輝かせてリリィが言う。まあ現地の食料事情というのはやる気にも直結するし大事っちゃ大事か。俺は全く行ったことがないからわからないな。


「全体的に辛い味付けらしいけど、それさえ気にならなければ美味しいはずだよ。一回お土産に買ってきた辛い鶏肉、あれなんかがガーブルグの味だね」


 キャスに言われて思い出したようにうんうんと頷く。ガーブルグ帝国にも行ったことがあるのか。キャスの行動範囲はずいぶんと広い。ちょっと怖くなるくらいに。


「私ちょっと不安です。お菓子いっぱい持っていこうかな」


「ハイネ、私にも分けて」


 辛いものはあまり食べたことがないが、大丈夫だろうか。ニクスロットの大陸領で食べたカレーなんかがそうだ。とりあえず全然食べられないという程ではないはず。


「出発はいつだ? それまでに装備を整えたい」


「一週間後だよ。各自準備を整えておくようにね」


 これまでかなり強行軍といった遠征が多くて不安だったが、今回は余裕があってよかった。今回は依頼主の話がないし、アーツ本人の発案なのだろう。毎回こうであればいいのに。


 しかし、少し気にかかる点があった。それを解消しておきたくて、解散した後アーツを呼びとめる。


「なあ、なんでこのタイミングで根幹魔力なんだ? キャスリーンってやつを王にしなくていのか?」


 アーツが一瞬震えた。ように見えた。そういえば、キャスリーンの話をアーツには聞いていないのだった。まずい、警戒されただろうか。


「君がキャスリーンの名前を何故知っているのかはここでは置いておこう。理由は二つさ。一つは世界が終わったら彼女を王にする意味がないから。もう一つは俺達がこの国をしばらく離れるべきだからさ」


 一つ目の理由はわかる。命あっての物種というやつだろう。どんなに大きな目標を掲げようと、世界がなければ意味がない。それ自体は理解できる。


 しかし、俺達がこの国を離れる理由が分からない。俺達は国の守りの要、その一翼を担っているはずだ。国を離れればアイラ王国は少なからず危険に晒されやすくなる。


「この話はみんなには内緒だよ。国の頭を挿げ替えるには、一度国を危機に追いやってからそれを救わなければいけないのさ。だからこそ、『彼ら』と一番激しく争った俺達が一度いなくなることでその活動を活発化させなくちゃいけないのさ」


 民が望むのは救国のヒーローということか。そのためには一度国を危機的状況に持っていくことが必要になる。自作自演感が否めないが、そんなこと救われた側にはわからない。


 そして『彼ら』とは、おそらくは。俺達と激しく争い、この国を害そうと画策する集団。そんなのは一つしかない。


「まさか、『蒼銀団(アビス・インディゴ)』を泳がすっていうのか」


 アーツは、謀略渦巻く瞳で妖しく笑うことで俺の問いに答えた。

次回、143:ガーブルグ帝国 お楽しみに!

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