139:それは、空を翔ける鋼弾
魔術を打ち消しつつ、刀を振り回して魔術師たちを斬っていく。数は多いが、そのせいで大味な魔術は使用できずにいる。これならいけそうだ。
魔術はたいてい広範囲、高威力といった方向性で進歩する。まあ自然な流れではあるのだが、そのせいで小規模な魔術などは進歩しにくい。
例えば火をつける魔術。初等魔術【フレイム】から派生し、灯りになる【トーチ】、遠くへ飛ばす際の【イグニッション】、広範囲を焼き尽くす【バースト・フレイム】などがある。
炎魔術で一番種類が多いのは【バースト・フレイム】のタイプ。同系統の魔術の中では【バースト・フレイム】が一番範囲が狭く威力も小さい。
もともと魔術は魔法勢力に対抗するために作られたものだ。魔術の進歩の歴史は魔法との戦いの歴史ともいえる。だからこそ、魔法に迫る魔術というのが求められたのだ。
だからまあ、現在では威力の高さで初等魔術や高等魔術、戦用魔術なんていう区分けができてしまったわけで、上位の魔術が使えれば使えるほど偉いという魔術社会がこの状況を生んでいる。
実際、適性がなければ高等魔術と呼ばれる魔術は使えないわけだが、それが使えたら偉いというのは少しおかしいと思うのだ。それともこれは僻みだろうか。
皮肉なことに今回はそのおかげで俺もこの状況を切り抜けられているから、一概に悪いとも言い切れない。
どうにか待ち伏せの一団を蹴散らして奥へと進む。どの部屋から脱出しようとしているかはさっきカイルに教えてもらった。一直線にそちらに向かう。
「ここかッ」
部屋の方向に向き直りながら扉を蹴飛ばす。部屋の奥まで吹き飛んだ扉は、人影にぶつかる前に爆散する。全員がフード付きのマントをしていて誰が誰だかわからない。階下で戦っている間に着たのだろうか。
「用件はわかってんだろ。礼装を作った奴を出せ」
「あんたが頭首様の言っていた忌まわしき特務分室の一人か。ここで殺すのもいいが、今すべきは転進だ。ではな」
それだけ言うと屋根に開けられた穴から部屋の全員が出ていってしまう。すぐに天井に飛びついて後を追う。
だが流石に強力な魔術師集団だ。既にかなり遠くまで逃げてしまっている。ここから数人撃ち落としたところで大して戦況に変わりはない。ないのだが。
「それでもやりたくなるのが殺し屋の性ってな」
大きな変化はなくとも敵の数を減らしておくことで損することはない。常に返り討ちの可能性と隣り合わせの殺し屋は、自分が負ける要因を出来る限り削っておかなければいけないから。
拳銃を取り出し出来る限り多く弾を当てておく。数人落とせたか。弾を交換しながらもう手の届かない敵を睨む。
「レイさん、大丈夫っすか?」
部屋を捜索し終わったのかカイルがやってくる。特に収穫はなかったようだ。残念だがないのなら仕方がない。
「逃げられちまった。狙撃班も交戦中だが、ことごとく防がれてしまっているようだな」
狙撃魔術というのは飛距離を伸ばすために魔術の持続性を重視しているため威力があまり高くない。即発動できる障壁魔術でも距離によっては防ぐことが可能だ。
「アルタイルさんのところに行くっすよ。あの狙撃銃を預けてあるっす」
そういえばそうだった。最初は持ち込むつもりだったようだが、俺がやめさせた。狭い室内戦闘であまり大きなものを持って戦うのは動きが制限されてしまってよくない。
あれならばかなり強力な障壁魔術でも貫ける。確実に仕留めることができるだろう。アルタイルは城壁の上。今から全力で行ってもギリギリの距離になってしまう。
「いまからそちらに向かうっす、出来る限りの足止めお願いっす!」
カイルが叫んで駆け出す。館の中ではまだ戦闘が行われているようだが、後は王国軍の兵士に任せておけば大丈夫だろう。俺もカイルの後を追う。
そして王都外壁、アルタイルの許へたどり着いた俺達が見たのは、アルタイルが敵の狙撃魔術に肩を貫かれる光景だった。
次回、140:それは、空を翔ける鋼弾2 お楽しみに!




