138:突入
夜明けだ。合図をしてカイルと共に建物から出ると、まずは手榴弾で正面扉を破壊する。それとほぼ同時に【フォッグ・スモーク】の符を放り込み、さらに【パラライス・スモーク】の符も投げ込み、騒ぎを聞きつけて一目散にやってきた働き者を無力化する。
煙が晴れると同時に内部に突入する。カイルの索敵によればこのあたりにはまだ敵は来ていない。
俺達が館の中に入るのと同時に、隠れていた王国軍兵も館の出入りできそうな全ての扉、窓の前に陣取る。
さすがは王国軍。俺の頼んだ装備を完全に揃えてくれた。立場が弱いというのはあくまで軍の中での話。彼だって王国軍の士官の一人なのだ。
俺が提案したのは三人一組で役割分担をする戦い方だ。防御の前衛、攻撃の中衛、補助の後衛で分かれる、戦争でもよくある陣形だ。
だが、ここで他と大きく違うのは前衛の装備だ。基本的に前衛は障壁魔術などで防御を担当するが、『蒼銀団』は露骨な俺対策で物理攻撃を併用する。だから俺は大盾の装備を提案したのだ。
金属製の大盾に魔術防御系の付呪をする。視界が悪くなることと他メンバーの射線が狭くなるのがデメリットだが、意外にいい提案だったのではないかと思っている。
なにしろ、付呪された盾を持つことで基本的な防御が常時発動できる。広範囲魔術や高威力魔術に対する個別対策に注力できるのだ。
敵を退けながら一階を走り回り、礼装関連のものを探す。礼装を作ったという女も見当たらない。一階ではないか。
「一階対象ありません、第二陣突入っす!」
カイルの合図と共に一斉に兵士たちが突入する。窓や扉が壊れる音が同時に響き、館全体が震える。
兵士たちは同じ構成の部隊を第一陣から第三陣まで用意した。俺達の進行度に合わせて1フロアずつ制圧していく。
最終的に俺達が三階、第一陣が外、第二陣が一階、第三陣が二階といった形で【蒼銀団】を追い詰めていく。それまでに礼装が見つかればいいのだが、そう簡単にもいかないだろう。
「うわあ、そろそろ構成員がしっかり準備して襲ってくるっすね。気合い入れていくっすよ!」
「任せろ」
カイルと組むのもかなり慣れてきて、相当上手く連携が取れるようになってきた。交わす言葉は減り、お互いの身体を利用しての動きが増えた。
左手の散弾銃で牽制し、右腕を足場にカイルを天井近くまで飛ばし上から射撃。前に出て的になったカイルから腕が伸び、手を掴んで遠心力を利用して前まで投げてもらう。
体当たりで敵を蹴散らすと高速射撃でカイルが止めを刺す。敵を倒すのにかかる時間もかなり短くなった。
「全部の部屋を回ったっすけど二階にもないっすね。ということは三階っすか。第三陣、突入っす!」
今のところ上手くいっている。今のところどの部隊も誰一人欠けてはいない。三組撤退したようだが、それ以外はほぼ無傷で持ち場についているとか。
撤退した組も原因は側面からの不意打ちらしく、力押しで負けたという話は聞いていない。やはり、下級構成員くらいならば普通に訓練された兵士で対応しきれるのだ。
今のところ手応えのある敵とは当たっていない。三階にはそういう幹部級も数名揃っているのだろう。
「レイ殿、カイル殿、第三陣到着しました。こちらはお任せください」
ここまでやってきた兵士に二階を任せ、三階へ上がる。ちらりと窓の外を見ると、狙撃班も動き始めたのが分かる。遠方から正確な狙撃で支援をしてくれているようだ。
『レイ君カイル君聞こえるかい? 私だ、エルシだ。屋上に出てきた構成員たちが狙撃班と戦闘を始めている。屋根の上から逃げるつもりだろうから急ぎたまえ』
突然エルシから連絡が入る。なるほど、屋根の上とは考えた。狙撃班さえいなしてしまえば屋根を飛び移ることで出入り口に張り付いている王国軍を無視して路地にでも逃げることができる。
「ってもなぁ」
三階には明らかにちょっと雰囲気の違う構成員たちがかなりの数並んでいた。このフロアも捜索しなければいけないのに。
「カイル、この階の捜索を。俺はこいつらを突破して敵を追う」
好ましくはないが、ここは分かれるしかない。頭首の性格の悪さを考えると俺達を分断するのが目的な気もするが、もしそうだったら策に乗っても乗らなくても地獄だ。だったら乗ってやろう。
爆破の符を投げつけ、散弾銃を乱射して敵を攪乱してカイルを先に行かせる。複数相手だが、まあ力は伸びないか。だとしてもすぐに突破してやる。
次回、139:それは、空を翔ける鋼弾 お楽しみに!