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12:戦闘開始

 出撃の準備を整えながら、今の状況を整理する。


 カイルからの情報によれば、憲兵の女が手引きした魔術師たちによって司令部は制圧されたとのこと。手際がよかったこともありまだ負傷者などはほとんど出ていないが、いざ王国軍の突入作戦が始まればそうともいかないだろう。


「諜報の主をキャスに移行。キャスはカイルと合流し次第独自に動いて周囲の警戒にあたってね。できれば衝突が遅れるように調整してくれたまえ」


 アーツから待機の指示が出たから、仕方なく座る。彼は無意味に少数の戦力を動かすことに意味はないと言っていた。確かにこの大事に対して闇雲に戦うことは無駄な気もするが、しかし。


 いや、それがわかっているからこそ相手も憲兵という集団を引き入れたのだろう。このような戦場では統制の取れた集団の方が強い。自分たちの戦力を整えながら王国軍の機能を崩すことができる憲兵を引き入れたのは賢い選択だ。


『アーツ、続報だ。国内南部の10領から兵が出た。やっぱりこれは……』


「うん、思ったとおりだ。黒幕が着くまでは様子を見ていてくれ」


 短い会話だが、しかしアーツは訳知り顔だ。何か知っているならば教えて欲しいのだが。


「お前は何か、心当たりとかあるのか?」


 阿呆のような俺に質問にアーツは笑って首を横に振る。全てをわかったような口ぶりだったが、そうでもないらしい。


「ただ、考えていただけさ。今回の動き、憲兵を巻き込んだことも含めて明らかに動きが良すぎる。デキる奴が裏にいるだろうと、そう思っていただけだよ」


 確かに、先ほど入った挙兵の連絡もそうだが、一斉に、そしてすみやかに事が運びすぎている。爆発した不満のままに進むというよりは計画的な侵略だ。


 しかし、一体誰がそんなことを。


「他の国が関わってる?」


 俺の頭に浮かんだ疑問に呼応するように口を開いたのはリリィだった。考えてはいなかったが、そういう方向から絡んでくる可能性もあるか。


「そう、比較的現実的で、そして最も厄介なケース。素早く、そして徹底的に済ませなければ南部は他国からの侵略に耐えきれないほどに弱体化するだろうね」


 アイラ王国南部は土地が細く、鉱産資源で財政を賄っていた地域だ。鉱脈が枯れつつある現在、北部との経済格差は広がっているということは周知の事実だが、つまりそれは他国からの侵略の足がかりとして最適であることを意味している。


 進軍し、土地を荒らしても大きな問題とならない地域。ならば徹底的に攻め上げ、都への前哨基地を作ってしまえばいい。となれば確かに、消耗を限りなく少なくしながらこの争いをおさめなければいけない。


「なら、ジェイムが排除できたのはよかったな。あんなのが紛れてたら鎮圧も一苦労だったぜ」


「そうだね。今回戦うことはないだろうから、そこはひと安心だ」


 と言いつつ、この男が苦戦するという光景はどうにも想像がつかないが。いや、待てよ。


「今回、ってなんだよ。逃したのか?」


「まあね、司法取引みたいなものだよ」


 やっと引いたはずの幻痛が、戻ってくる。彼が死んだか、檻に入れられたから安心できたものを、この街にまだいるとなれば。俺たちに報復をしてくることはないだろうが、再び、いや三度見える可能性はゼロではない。


 恨めしい気持ちもある。が、次戦闘になったときもし負けないようにしておけばいい。むしろそうしておくことが、この組織に所属している俺のことだろう。


 なんて決意を固めても、嫌な記憶と痛みは遠ざからない。逃げるように目を閉じる。




『────が集結してる。今晩中にかなり動く気だ、そろそろこっちも限界だし頼むよ』


 アーツとキャスの話し声で目が醒める。時計を見ると日付をまわって少しというあたりだった。どうやら状況は良くないらしい。俺がここで起きたのはいいタイミングだったか。


「行こうかレイくん。リリィちゃんを背負ってね」


「は、はぁ?」


「のんびり起こしている暇はないってことさ。この戦いに身を投じるのは俺たちだけじゃない」


 コートを翻して部屋を出ていくアーツを追い、リリィをおぶって部屋を出る。訳がわからないが、上司の命令に逆らうわけにもいかない。軽やかに路地を駆けるアーツの背中に向かって駆ける。


 その背中を見ていると、奇妙な感覚に襲われる。優雅でありながら、貧民街で生きるコソ泥のように狡猾だ。ゴミやら雨どいやら、不規則に転がる障害物も意に介さない様子で進んでいく。


 そしてしばらくして、辿り着いたのは王都西部の静かな街。いわゆるゴーストタウン。


「どうしてこんなところに?」


 戦うにしたって、こんなところに革命派や憲兵はいない。なにせ制圧すべき人がいないのだ。横暴な支配を行ったギルドと、その掃討戦で危険な状態になったこの地域は、ほぼすべての人が引き払い、貧民街の人間ですら立ち寄らない。


「このあたりまで来ないと、仕掛けにくいと思ってね。そうだろう?」


 アーツの言葉は、俺に向けたものではなかった。その視線の先は屋根。だけではない。尋常ではない気配が徐々に露わになる。


「何もかも、思い通りになるとは思うなよ」

ついに出撃した特務分室。彼らを付け狙うものの正体は……?


次回、13:対立 お楽しみに!


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