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132:誰にでも

 ようやく研究室に入ってきたカイルたちを加え、狙撃礼装がまともに動くのか確認に入る。これが十全に機能を発揮したならば大事件だ。国の勢力図が大きく変わることだってありうる。


 ここで問題になるのは誰がこの礼装を使うかだ。一応仕込まれている術式は危険のないものらしいが、万が一何か隠れていたらまずい。


 すぐに多くの兵士が名乗り出たが、そのすべてを無視してアルタイルが進み出る。


「俺の事件だ、俺に任せてくれよ」


 ここはさすがと言うべきか。立場的には場合によっては命の危険もある実験台などならない方がいいのだろうが、彼はそれを部下にやらせるのは性に合わないのだろう。戦場に立つなら自分が先頭に。アルタイルはそういう男だ。


 俺自身、そういう姿勢は嫌いではないが組織人としては良い行動ではない。なにしろ組織、それも戦闘を含むものに関して頭がなくなるのはかなりの痛手だ。アルタイル程の実力者ならばいいのかもしれないが。


 人が集まり組織が大きくなるにつれて、人に求められる機能は無機的なものに変化していく。銃を構成する一つの部品のように。


 人としての正しさと、部品としての正しさは必ずしも一致しない。そしてアルタイルは人としての正しさを貫き通したタイプだ。


 そう考えると。組織を守る、部品として生きる者にはアルタイルが厄介な存在なのではないかと思う。なにしろ意思を持つ部品だ、不安要素でしかない。


 だが、アルタイルは纏った。黒いマントのような礼装を。そしてそれに付属していた腕輪を。


 隠蔽も同時にできるのならば、礼装の機能は二倍だ。マントに付呪すればこういう効果も望める訳か。考えてみれば何もおかしいことはない。


「まあ、身体の動きに付随しないこういう形式のものに付呪するのは大変なのだけれどね。魔力を放出して魔力を通すのが難しい。これの場合腕輪でその機能を補っているようだけれど」


 良さげに見えるものにはそれなりの欠点があるということか。コートの礼装なんていうのはあれはあれで無難に作られているのだろう。


「とりあえず【魔弾】でも撃ってみるか。聖なる素よ、空を裂け」


 収束した魔力が、弾丸となって的へと飛んで行く。狙いは正確。的の中心をしっかりと射抜いた。だが。


「なあこれ、本人の実力なのか礼装が機能してるのかわからなくないか?」


 ふと思いたつ。狙撃専門の部隊の人間、それも一番の実力者にやらせてどうする。安全は確認できたし狙撃の得意ではない人間にやらせるべきだろう。


 すぐさまジョルジュが名乗り出て、礼装を纏う。アルタイルの部下の誰か一人にやらせては不公平感が出てしまうからという配慮からだろう。咄嗟の判断力はさすがのものだ。


 と、思ったのだが。


「おっしゃあ! ぶっ放してやりますよ!」


「いいね。壁を貫くつもりでいこう」


 ダメだ、この二人。調和だなんてそんなこと全く考えてはいなかった。二人とも礼装の能力をただ確かめたいがために一番に名乗り出て礼装を羽織っているのだ。


 さっきの数倍はある魔力が膨らみ、一点に集中して的へと飛んで行く。炸裂した強力な一撃は的を破壊する。


 どうやら礼装の効果は本物のようだ。的は的でも50mは離れている。ジョルジュでも的の中心に当てられたのだから本当に強力なのだろう。


「この礼装が、本当に国を変えちゃうんすかねぇ」


 カイルがぽつりと呟く。偵察や潜入に加え、狙撃も得意とするカイルにとっては複雑な話だろう。周りにはなかなかできない、得意分野の一つをなくしてしまったのだから。


 誰にでも出来るというのは善いことのようだが、それができては困る人間もいる。誰もができては価値を失ってしまうものも、この世にはあるのだろう。俺の魔力喰いが皆にできてしまったら俺がいる意味が薄れてしまうように。


その後もしばらく検証が続き、礼装は狙撃性能を大幅に高めるということが証明されたのだった。

次回、133:アルタイルの行方 お楽しみに!

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