129:狙撃礼装2
超高電圧で黒焦げになった男たちを締め上げ、黒マントの居所まで案内させる。一度力を示してしまえば彼らは従順で、全く抵抗しなかった。
まあ次抵抗しようものなら今度こそイゾルデに殺されそうだが。さっきの一撃ですら数人再起不能にしてしまったのだ。すぐにでもまともな医者に診せた方がいいだろう。
黒マントの根城は王都南部、スラムを抜けて少し行ったところにある寂れた通りだった。なんでも魔術礼装や魔導具の開発や販売で生計を立てる魔導技工士らしい。
男たちに銃を突きつけさらに詳しく聞いてみると、有名な犯罪組織が使っていた魔導具も彼女の提供らしい。魔導具界隈ではそこそこ有名なようだ。
俺も魔道具を使うことは多いが、たいていは使い捨ての市販品だ。なにしろ特注で作るようなものは大抵魔力が必要で、俺には扱えない。
家の前で立ち止まり、とりあえず一応ノックする。これで大人しく出てくれるのであればよし、俺も最初から殺す気でかかるつもりはない。
しばらく待ってみたが返事はない。留守か、隠れているかのどちらかだろう。思い切って扉を開けてみる。とりあえず誰もいなそうだ。
部屋の中は物で溢れていた。開発途中であろう魔道具や、魔力の籠った宝石などの素材類が所狭しと置かれている。
「私たちの目的は、あれじゃないか?」
エルシが部屋の奥の壁を指す。その先にあったのは灰色の服。まだ新しく、何かしらの魔術的な仕掛けが施されているようだった。
「俺は触れないから回収してもらえないか?」
俺が触ると折角の術式がダメになってしまうかもしれない。敵勢力に渡れば脅威だが、味方側に回れば強力な武装だ。そう簡単には処分できない。
しかし気になる。大事な商品であろうこの礼装を、こんな分かりやすく置いていくだろうか。俺だったら逃げるにしてもこれだけは持っていく。
ならばこれは何なのだ。試作品の失敗作か、はたまた完全な別物か。とりあえずはこれを持ち帰るしかないが、場合によっては罠が仕掛けられている可能性も考えられる。慎重に扱わなければ。
「さて、今日はここまでやれれば上出来だろう。今日のところは帰ってお茶にしようか」
「これだけでいいのか?」
ずいぶん早い引き上げに拍子抜けする。普通朝から晩まで歩き詰めで、出来る限りの情報収集をするものだと思っていたからなんだか申し訳ない気分になる。
「考えてもごらんよ、犯人の正体と根城を掴むことが出来たんだ。おまけに証拠付きでね。これだけ見つかれば十分さ」
まあ確かに。大事なのはどれだけ時間をかけたかではなくどれだけの情報を手に入れることができたかというところだろう。
「それに、手に入った情報が重要であればあるほど精査や思考に時間を割くべきですものね、お兄様」
もう帰る気まんまんの二人は家に向かって歩き始めている。この二人の様子を見てどうにも落ち着かないのは、俺が思っているより勤勉という証拠なのだろうか。
夕飯の相談をする兄妹の後を、数歩遅れてついて行きながら、俺も今日はキャスが何を作ってくれるのかと少し楽しみにするのだった。
次回、130:狙撃礼装3 お楽しみに!




