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127:咎人の心

 アルタイルの話によれば、襲ってきた相手は外壁の上から撃ってきたという。位置は大体南西部あたり、正確な位置は分からないのでアルタイルの証言から正確な位置を探すことからスタートだ。


「と言ってもどうしたら正確な位置なんてわかるんだ? もう何日も前の事件だから魔術使用の痕跡も残っていないだろうし」


 魔術を使用した後には、魔力の乱れのようなものが空間に残る。とはいえその乱れは一時的なもの。空間に存在する魔力に中和され、余程の大魔術でもない限り一日か二日で痕跡は消失する。


「イゾルデだったらどうする?」


 エルシは生徒に問題を出す先生のようにイゾルデに問う。エルシにべったりだったイゾルデもこの時ばかりは周囲を見渡し、何か手掛かりになりそうなものを探す。


 イゾルデの顔は真剣そのものだ。貪欲に答えを求めるような姿は、この二人が兄妹なのだと感じさせる。普段の様子は違えど、根は同じということか。


「まずは、アルタイル氏のいた場所へ射線が通るかどうかですかね。間に建造物などがあればアルタイル氏は犯人を観測できないはずですし」


 なるほど確かに。不確定なものをより確実にするためにはあらかじめ確定していることでそれを補強すべきだということか。


 今回の場合であれば外壁のどこかという確定していない要素を被弾位置という確定した要素で絞り込む。


 射線の通る部分にチョークで印をつけていく。そうすると、途端に候補は減った。南西部という大きな枠の中から、6つのポイントにまで絞り込むことができた。


 それぞれを見て回りながら考える。俺だったらどこから狙撃をするだろうか。狙撃をする際に必要になってくるもの。それは複数あるが、中でも重要なのはあれだろう。


「エルシ、俺が思うに狙撃に使ったのはここなんだが」


「なるほど。根拠を聞かせてくれるかい?」


「退路だ。6つのポイントの中で、ここが一番路地に逃げ込みやすい」


 そう。狙撃をする際に大事なのは撤退だ。魔術でも実銃でも変わらないが、狙撃をしようとすればどうしても装備が重くなる。


 そのため射撃後すぐに敵から身を隠しつつ遠くに逃げられる退路が必要なのだ。そうでないと憲兵団や遊撃隊に追いつかれる危険もある。


 もちろん、これだけでポイントがここだと断定するのは性急すぎると思うが、かなり大きな根拠の一つだと思う。捜査というのは、咎人の心を知ることなのだ。


「素晴らしい。そうか退路か、面白い事を聞いた」


 どうやらエルシも納得したようだ。俺がエルシに褒められたのが悔しかったのか、イゾルデが恨めしそうな顔でこちらを見ている。お前の兄は取らないから安心しろ。


「犯罪、特に物証の残りにくい魔術的なものはね、どのようにその犯行が行われたかは考えるだけ無駄なのさ。だが犯人が人である以上その人間の思考は絶対に存在する。それを追うのが犯人に最も近づけると、私は思うね」


 その点俺は物証が残って捕まえるのが簡単そうだ。現場に薬莢もナイフも置き去りにしているし、エルシのような者が本気を出せば一瞬で特定されるだろう。


 おそらくその場合も国に保護されるとはいえ、今はそういうものとは関わりたくない。今の俺にはやるべきことがある。それを為さずにお縄にはつきたくない。


 南西部からの狙撃ということは、普通に考えて犯人の拠点は西部か南部。北部や東部からここまで来るのはそこそこ手間がかかるし、路地に逃げ込むのであれば遠くまで来る意味がない。


 外壁に座って足を外に投げ出す。少し子供っぽいが、一度やってみたかったのだ。普段見上げている王都外壁に腰かけるなんて、滅多にできることではない。それに、座れば少しは視座も変わるかもしれないし。


 こうして高いところから王都を見てみると、地区ごとの差がよくわかる。西部の状況がひどいのはわかりきったことだが、こうして上から南部と比べてみるとその差は歴然だ。


 西部というとやはり『蒼銀団(アビス・インディゴ)』を思い出してしまう。ここの路地を通れば容易に彼らの本拠地である館に辿り着くことができる。


 一応王都内の地理はある程度把握しているつもりだ。そこの路地なら入って行きたい場所に抜けることだってできる。


 遠くに見える館をにらみつけ、俺は静かに立ち上がるのだった。

次回、128:狙撃礼装 お楽しみに!

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