126:共同戦線(捜査)
事情聴取の翌日、俺達は集合して事件の捜査に向かう。なんだかいきなり人数が増えて少し変な感じがする。
「しかしアルタイル、なんだあんたその恰好は」
昨日彼は身分を隠すと言っていた。王国軍トップクラスの力を持った有名人がいたらさすがにみんな気付く。それは防がなければいけない。
しかしだ。色眼鏡はないだろう。服装自体は少し質こそいいが一般的なのに、黒く輝く色眼鏡が全てを壊している。
本人曰く顔を見られても大丈夫なようにということらしいが、異様に浮いている。確かに顔を隠すには悪くない手段ではあるが、フード付きマントにでもすればよかったものを。
「なんか商店の道楽親父っていう感じですね。まあこういう人もいますよ」
「ははは。道楽親父とは、ジョルジュも上手い例えをする。芸人のセンスがあるんじゃないか?」
「ええ!? 俺がなりたいのは探偵ですよ先生!」
エルシは特に気にもせず言ったのだろうが、エルシを先生と慕うジョルジュにとっては複雑な気持ちだろう。悪意ゼロなのが余計に悲しい。
「さて、5人だと多いから二手に別れよう。私とレイ君、ジョルジュ、カイル君、アルタイル氏でどうだい?」
特にチームバランスがおかしくなるようなこともないし、特に異存はない。わざわざ男5人全員で歩くのも微妙だし、ちょうどいいだろう。
俺はエルシについて歩きながらこれからの方針について話を聞く。どういう方向性で捜査を進めるのか、知っておいた方が役に立てる場面が増えるだろう。
「正統派の捜査は彼らに任せよう。私たちは少し視座を変えた捜査をしたい」
「視座? どういうことだ?」
首をかしげる俺に、エルシは一枚の念写を見せる。見たことがあるようなないような壁の念写。さて、ここはどこだったか。
しばらく考えたが、全く見当がつかず軽く両手をあげる。さっぱりわからない。出てきそうで出てこないこのもやもやした感じがどうにも気持ち悪い。
「君の部屋の真下、一階の部屋の窓から撮ったんだ。隣の建物は一階建てだから同じ方向を見ても壁しか見られない。普段二階からの風景しか見ていないとわからないものなのさ」
なるほど、視座を変えるというのはそういうことか。知っているはずの場所からの景色でも、高さを変えれば見えなかったものが見えてくる。
思えば戦闘のときだってそれは変わらない。正面から倒せない相手には別の手を講じるしかないのだから。
例えば前王を殺したとき。真正面から殺しにかかれば親衛隊に阻まれていただろうが、塔の上に登ることで直接殺すことが可能になった。
カイルたちに正統派の捜査は任せると言っていたし、俺はこのイレギュラーな捜査に付き合うわけか。向こうはきっとジョルジュがうまくやってくれることだろう。
「まずどこに行くんだ?」
「それはもちろん、現場さ。ああでもその前に一人拾っていかなければ」
まだ別に協力者でもいるのだろうか。あまり人数が増えるのは好ましくないのだが。
向かったのは近くの食堂。ここに待ち合わせの相手がいるというが、一体どんな人物なのだろうか。
「お待たせしましたお兄様!」
ダッシュでこちらに近寄ってきて、飛び上がりながらエルシに抱きついたのはエルシに少し似た細身の少女。お兄様と言っていたし妹か。
「紹介しよう、妹兼助手のイゾルデだ」
「はじめまして、お兄様共々よろしくお願いいたします」
「レイだ、よろしく」
ニコニコ顔から一瞬で穏やかな笑顔に変貌する。こうしていると余計にそっくりだ。それにしてもエルシ、妹という続柄と助手という役職を同列に並べるのはいいのか。イゾルデ本人が何とも思っていないようだから構わないが。
イゾルデを加え3人になった俺達一行は、現場へと向かう。エルシの腕に掴まり半分引きずられるようにして歩いているのがすごく気になる。あと表情も姿勢も変えず歩いているエルシも。
歩いている途中、俺は違和感があることに気が付く。昨日行った襲撃現場に向かう道にしてはずいぶん遠回りだ。むしろ王都の外に向かっているように思える。
「なあエルシ、本当に現場に行くんだよな。現場は向こうだと思うんだが」
俺の問いかけに、エルシは笑って答える。
「視座を変えると言っただろう? 私たちが向かっているのは襲われた現場じゃなく、襲った現場さ」
次回、127:咎人の心 お楽しみに!




