125:ジェローム・アルタイル
俺達は王国軍の本部へと向かう。何か有力な情報を得られれば嬉しいのだが。
王国軍本部は他の組織と比べるといくらか豪奢だった。いや、それでも憲兵団の詰め所と同じくらいだから憲兵団の方が上か。
詰め所や本部の豪華さは、組織の位階の高さと気質によって変わってくる。例えば俺の一応属している遊撃隊はかなり無骨な雰囲気だ。
まあ無骨ながらみんな結構親切にしてくれるし、悪いところではないのだが。大抵は軍より実践を重ねている奴らだ、俺みたいなのとは気が合うのだろう。
応接室に通され、お茶を飲みながらジェローム・アルタイルを待つ。
お茶の味が少し、劣っている気がする。別に不味いというわけではないが、香りが少し薄いというか、単調な気がする。
ラ・ベルナールにエルシ、お茶やお菓子にこだわる人たちのご馳走になっていたおかげで俺も知らないうちに舌が肥えてしまったようだ。
しばらく黙って待っていると、部屋の外が少し騒がしくなり大柄の男が部屋に入ってくる。
部屋の前で護衛らしき兵士を外にいるよう伝え、アルタイルは俺達の向かいに腰かける。位にしてはまだ若い、実力は本物ということか。さすがに何もせずに昇進できるほど甘い世界ではない。
厳しい顔で腰かけたアルタイルだったが、一瞬の後姿勢を少し崩し大きく息を吐く。そしてまるで帰宅後のように軍服の前を大きく開ける。
「いやすまない、襲撃を受けてから気を休める暇もなくてな。話自体ははきちんとするから少し楽にさせてくれ。公の会合じゃないしあんたたちもそう緊張なされるな」
そう言われて俺も背もたれに身体を沈める。カイルとジョルジュも同様だった。エルシはあれで平常運転なのだろう。俺にはできない。
話を聞くのは基本的にエルシの役目だ。俺達よりも聞き出し方というものをわかっている。
敵対勢力から情報を引き出すのなら俺の方が上手だろうが、そんな方法をまさか王国軍のお偉い様にできるわけがない。今度こそ処刑される。
俺の前王殺しも一応現王のおかげで指名手配を避けられているから普通に生活できているが、露見すればこの国での立場はなくなる。
王権が他の国より強くないとはいえ、それでも王は王。法でも殺せば死刑と決まっているし、ファルス皇国の時のように晒し上げられて殺される。
特に親衛隊のイッカなんて進んで首を斬りに来そうな勢いだ。カイルの援護もあって以前戦った時は逃れられたが、次戦えばどうなるかわからない。
ジェローム・アルタイルという男は、生粋の武人とも文官とも違う雰囲気がした。荒々しさと理知的さを完全に両立させたような、人一人で二人分を補うような存在。
性格も明るく、気楽な適当さを持ちながら聞かれた質問への回答に適当さはなく内容はしっかりとしている。軽いのは口調だけで、その言葉には重みがある。
ここまで条件が揃っていれば、部下からの信用も厚いということか。
部屋の外には護衛の兵士が大勢いる。アルタイルが狙われた張本人とはいえ、ここは本部なのだ。むしろ警備を固めるのは出入り口であってここじゃない。
我こそはと護衛についている者たちの大半は、アルタイルを守るため、自分の命すら懸ける覚悟がある。この人のためなら命を懸けていいと思った者たちだ。
あれだけの人数に命を懸けさせる、それは誰でも出来ることではない。アルタイルはよくできた人間なのだろう。
話の中である程度犯人の情報は分かったが、それでもまだ少ない。
黒いマントで背は低め、脚の形的には女らしかったという。黒マントなんていうのは身を隠すのによく使われるものだが、俺には『蒼銀団』が纏っていたものが連想されてしまう。
彼らも皆黒いマントを着用していた。おかげで誰の顔も見ることが出来なかったし、目的にはばっちり役に立っているだろう。
俺達が話を聞きつつああでもないこうでもないと話していると、アルタイルが少し笑い、名案を思い付いたかのように宣言する。
「そうだ、俺をあんたらの捜査に混ぜてくれよ。身分は隠すから邪魔にはならねえし。いざという時は一緒に戦うぜ」
「ああ、いいとも。共同戦線といこう」
次回、125:共同戦線(捜査) お楽しみに!




